タイムスリップ1997-5
ママのかわいい子猿ちゃん
お腹にキミがやってくると、やっぱり二人分食べたくなってくるみたいですね。
妊娠すると嗜好が変わるというのは、よく聞く話だが、私もこれを身をもって体験した。つわりもおさまりかけたある日のこと、ムラムラムラーっと、ある欲望が私の身体を突き抜けた。それはごく単純明快な欲望だった。「石焼ビビンバが食べたい!!」。これである。レモンでも梅干しでもなかった。幻の石焼ビビンバが宙を舞い、口の中ではその幻によだれしている。まだ暑い最中なのに、どうして石焼ビビンバだったのかは、今もってわからない。三十数年も人間をやっていると、青春時代ほどアグレッシブな欲求というのはあまり感じなくなるものだ。ところが、この日の私は、まるで飢えた野獣のように、とにかくビビンバを口にするまでは街中を徘徊しかねない勢いだった。さすがの夫も、私の尋常でない様子に恐れをなしたのか、近所の炭火焼き肉のお店で晩御飯を食べることを承諾した。私は何の迷いもなく「石焼ビビンバ!」とそれだけを注文して、やっと口にできる喜びに、天にも昇る気持ちだった。夫はシンプルに焼肉とビール。しばしの待ち時間はメニューのビビンバを眺めて過ごし、ようやく来ました! 念願の石焼ビビンバだった! そのおいしいこと、おいしいこと。今思うと、あの頃は幸せだったかもしれない。単純な食欲に突き動かされ、それを食べられたときは素直に天に感謝する、なんともわかりやすい感情の高ぶり。 嗜好の変わり方は本当にひと様々らしく、その方向性によって、お腹の中の子供の性別がわかるなんてことも言われている。知人の知り合いで、焼肉だけしか食べられなくなって、挙げ句の果てに20kg太り、妊娠中毒症にかかって入院した人がいるそうな。私はこの人の轍だけは踏むまいと心に誓っていたが、幸い、石焼ビビンバが食べたかったのはその日だけだった。その後時折こういった食欲に襲われたが、たいていはマックのフライドポテトだのミスタードーナツのフレンチクルーラーだの、ジャンクフードばかりだった。いったい、私のお腹の子は、こんなもんばかり食べていて無事に育っているのだろうかと不安に思ったりもしたが、基本的に、「人間は、食べたいと思うものを食べていれば健康なのだ!」という信念のようなものを持ってこれまで生きてきて、すこぶる健康だった私は、栄養バランスなどあまり気にかけず、欲望の赴くままに長い妊娠生活を過ごしたのだった。
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