『容疑者Xの献身』
発熱して翌日には元に戻った息子を、あまりはしゃがせないように見張りながら、『容疑者Xの献身』を読了。以下、ネタバレの独断感想なので、未読の方はこのブログはお読みになりませぬよう――。
読み終えて、私には二つの納得できないことが残った。一つは、石神氏のような人が、そうそう自殺などは考えないのではないか、ということ。もう一つは同じく石神氏のような人が、瞳が美しいからといってただその一瞬で、思いつめた自殺を留まり、しかもそのまま恋に落ちてしまうものだろうか、ということ。この二つの私の疑問に説得力をもたせるには、もう少し花岡親子の心根の美しさを象徴するようなエピソードが欲しかったな、と思った。恋心を至高の愛にまで昇華させたのは、その後の日々の営みの重なりからかもしれないが、それにしても、ここまでの無私の愛情を描くには、ちょっと花岡靖子という人の魅力の表現が足りなかったのではないかと思う。私がもし東野さんの担当編集だったら、きっとこの二点で喧嘩になったろうな、と思った。だってだって、残り三分の一くらいの頃から、「ああ、石神さんはどうして花岡さんのことをここまで好きになったんだろう?」というその一点だけが私の頭をグルグル回っていたというのに、「何という奇麗な目をした母娘だろうと思った。」で片付けられてしまったのだから。私はてっきり、彼が恋に落ちるシーンで終わるものだとばかり思っていた。この愛の深さこそが、この本のテーマなのにぃ~。それに、数学の美しさと芸術の美しさが同等のものだっていうのは、数学を志すような人はとうの昔に感じてることだろうし、それと人間の愛とはちょっと次元が違うような気がするんだけどなぁ……とはいえ、一目惚れというのは確かにあるし、それが劇的な運命であることもあるわけだから、一概に非難もできないけれど……。
それでも、腰巻のキャッチそのままに「謎解きの戦慄と物語の感動」は大いに味あわせてもらった。今回のガリレオ先生は、物理の何かしらの原理原則にまつわる謎解きは一切せずに、論理というよりはシックスセンスに偏っていたのも、他のガリレオ作品とは毛色が違った。
もう一つ余計な感想。学生時代、私はよく「刑務所に入れたら、雑事に煩わされずに一つ事に集中できるのになぁ」と考えていた、と夫に話し、「だから、石神さんは高校教師をやめて刑務所に入る方が、仕事に専念できてよかったんじゃ?」と訊いたら、「はぁ~?!」とあきれられ、そんなこと考えるのは私くらいだと言われた。そんなもんかなぁ???(石神氏の本当の真の目的は“純愛”でも“献身”でもなく、実はこっちだったりして…とか思い、これぞ本格ミステリー!!!と舌を巻いた)
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