マイクル・クライトンの逝去を悼む
56歳で亡くなった米原万里さんに続き、クライトン氏も66歳の若さで癌で亡くなるとは……。気になる作家を失う喪失感というのはなんとも、戻れない青春が固体化してしまったような不思議な感覚。
クライトン氏を間近で見たのは一度きり。数十年前に早川書房主催の講演会があり、それを聴きに行ったときだけだ。長身でハンサムで理知的でジェントルマンで努力家で……私にとっては、天が五物くらい与え給うたような才能豊かな人だった。講演会では、司会に呼ばれていた村上龍氏とのミスマッチで、残念ながら深みのある話は聴けなかったのだけれど、彼から発せられるオーラを浴びて幸福感に浸っていた自分を覚えている。『アンドロメダ病原体』で好きになり、『インナー・トラヴェルズ』で確固たるファンになった。ただ、『エアフレーム』あたりからなんとなく遠ざかってしまい、最近の作品は読んでいなかったのだけれど。。。
去年、地球温暖化について調べているとき、amazon.comの『Cool It!』のページにクライトン氏がコメントを寄せているのを発見して、「ああ、まだまだご健在で、新たなテーマにくらいついているんだな」と感じ、記憶に甦った。そしてちょうどその頃会ったサイエンスライターの友人が『NEXT』を読んでいるのを見て、「あ、私も久々に読んでみよっかな…」と思っていたのだが―――。
いつも、科学的・哲学的な分析の元で近未来や過去を手に汗握る筆致で描き、常に度肝を抜いてくれたクライトンだが、自身の体内に癌細胞が巣食い、それが増殖する最中、一体どんなことを考えていたんだろう? SF的には、クライトン氏の財力をもってすれば、抗癌治療が完璧となる未来まで自身を冷凍保存することも不可能ではないように思えてしまうけれど、彼独特の東洋的な心境のもと、安らかに自然に返っていかれたと思いたい。ご冥福をお祈りします。
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