『シモネッタの ドラゴン姥桜』
火曜日の午前中は、2時間ほどのパソコンボランティアがあって、どうせ集中的に勉強できないな、と諦観していたため、月曜夜、息子を寝かしつけた10時半過ぎから2時までの3時間半で、田丸公美子さんの『シモネッタの ドラゴン姥桜』を一気読みした。
田丸さんの性格も、その息子さんの性格も、我が家とは180度異なると思っていたのだが、田丸さんが故・米原万里さんのご友人であったことと、一人息子を育て上げたお母さんの実録エッセイということで手に取ったのだった。帯のキャッチには「息子は開成→東大→弁護士 オモローな母の子育て満載」とあった。
読後感は爽快。別に、開成・東大・弁護士なんてブランドがなくても、十分面白い内容だったのではないかと思う。全編、ちょっと斜に構えてウィットを効かせた調子で書かれているけれど、初めて読む田丸さんという女性の文章に触れ、何とキメ細やかに肝心な部分で愛情を注いでいるお母さんだろう!と頭が下がった。そもそも、すでに独立した息子のことを書くのに、誕生から保育園時代・小学校時代など、とうの昔に忘れ去っていてもおかしくないコマゴマとした事柄を、なんと詳細に覚えていて、瑞々しく書いていることか。私も相当なメモ魔で、息子が生まれてからしばらくのミルク量やら食事内容やら事件などは記録してあるけれど、今その当時のことを書こうと思っても、ここまで緻密に感情豊かに振り返ることは難しい。16章以降の大学生より先の部分では、ずいぶんアバウトな感じになっているが、それさえ、徐々に上手に子離れしている田丸さん自身を見るようで、私の子離れもかくありたい、と思わされた。
私が拍手喝采したのは、開成での授業中、他の生徒が私語をしてうるさい中、ユウタ君が「静かにしてくれ!オレは塾に行ってないんだから、集中して授業を聴きたいんだ!」と訴えたシーン! そうだそうだ!やんややんや! 入学と同時に東大に向けた塾に行くのが当たり前のようになっているらしいが、学校の授業も集中して聞けないで、何が塾だ!! また、ユウタ君が、学校での自治活動やアルバイトでの経験から、多くのことを学んでいる様子も微笑ましく読んだ。人間はどんな場面からも何かを学び取ることができる生き物だ。朝から晩まで勉強漬けになるより、少なくとも色彩豊かな世界を楽しめる人間になってほしいと、私も思っている。
開成時代に見知ったお母様方の中には、常識的に見てトンデモな方々も多々登場するけれど、本書を読んで、開成中高のイメージは私の中でずいぶん脈動するようになった。結局、田丸さんご自身が息子さんの中学受験を決意したそうだが、ある種、経歴のブランド獲得合戦のようにもなってしまう教育方針決定の最中でも、常に客観的でいられる様子に好感を持った。繰り返し、“子育ては百人百様”と書かれているのも、二十数年の育児実人生からの実感なのだろう。試行錯誤の真っ最中の私は、まだそこまで開き直ることもできないが、自分なりによくよく考えて暗中模索していくしかないんだな、と腹が据わった感じがする。
ユウタ君は実によくできたお子さんなので、実際の場面で役立つことはあまりない気がするが、放任しつつ締めるところは締める見事な手綱さばきには、あやかりたいなぁ~と思った。参考にしたいのは、“あとがき”にあった一文。
―――「いつもお前のことを見ているよ」「お前のことを大事に思っているよ」というメッセージだけは、折にふれ、伝えるよう努力してきたつもりだ。―――
私も、この2点だけはいつでも自信をもって言えるように、おおらかに構えていたい。
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コメント
甘さと辛さのバランスが難しいところですよね。甘すぎると付け上がるし(^^;;;
下の娘さんだって、気付いてないフリしているだけで、本当はよくわかっているのでは。。。親の本当のありがたみなんて、自分が親になってみないと、なかなかわからないものかもしれませんが(苦笑)。父と娘の関係は、母と息子より難しそうな気がします~(^^)
投稿: Taraco | 2009年1月29日 (木) 08時05分
最後の2点は私も同感!
上の娘にはかなり明確に伝えているけど、下になかなか伝えられないの...。なんでだろ?
それにしても甘過ぎる父親かな?
投稿: Y.Mita | 2009年1月28日 (水) 21時16分