生ゴミ処理装置事件(最判平成13年6月12日)
先週末のスキマ時間、論文講義からの逃避気分も手伝って、久々に判例集を開いた。冒認出願に関する特許付与後の事例だったが、読んでいてなんともいたたまれない気持ちになった。冒認出願とは、平たく言えば人のアイディアを盗む泥棒出願のことだが、法律を勉強し始めた当初から、「どうしてこんなものに“冒認”なんてそれらしい言葉を与えてしまうんだろう?」と腑に落ちなかったのだけれど、今回の事例にも考えさせられた。
事実関係を要約すると以下のような感じ。
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XとZは「生ゴミ処理装置」を共同発明し、共同出願した。
その後、Xの上司に当たるYは、Xの承諾を得ず無断で印鑑を使用して
偽りの持分譲渡証書を作成し、出願人名義変更をして
本発明の特許を受ける権利をYとZのものへと変更してしまった。
発明はそのまま出願公開され、YとZを特許権者として設定登録された。
Xはこの設定登録以前に、本権利が自分のものであるという訴えを
起こしたのだが、登録後にこれを認めることは、裁判所が特許庁の管轄を超えて
行政処分を下すことになるとの理由で、高裁はXの請求を棄却した。
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かなり簡略化しているので誤解があるといけないが、これは言わば、師匠が以前おっしゃっていた「特別法は一般法を破る」ということなのだろうか? それとも、単純な法の不備なのか? 私はこの事例を読んで、いくら「特別法は一般法を破る」とはいえ、特別法の範疇での手続も、所詮は人間のやることで、多分に一般法を優先させるべき事態を招きうるのでは?と思った。本事例など、小学生の眼から見てもYに分がないのは明らかで、こんなことで裁判を起こして時間とお金を無駄にした上、まっとうな請求が棄却されてしまうなんて、Xがあまりに気の毒ではなかろうか?
幸い、最高裁判決ではこれが覆り、「XはYに、本特許権のYの持分の移転登録手続を請求できると解するのが相当」という結論になったそうだが、理論的にはかなり苦しい判決だったようだ。「本判決は結論の妥当性を優先させたもので、理論的な面については今後の議論にゆだねたと解することも可能と思われる」と、なんともまどろっこしい枠囲みコメントが書かれたとか。
こういう事例を見るにつけ、「法律って怖いな」と思う。常識に照らせば犯罪ですらあるような行為も、手続とタイミングを満たせば、法的に認められてしまうのだから。そしてそれを覆すには相当の根気と辛抱が要る。当事者としての措置はまさに、薄氷を踏むような選択の連続だなぁ。
【※】平成23年改正で74条が加えられ、特許権の移転請求ができるようになった。法改正の方向性を目の当たりにして、なんだか救われた。。。
【後日譚】 忘れもしない、2018年5月22日に受講した特許法の講義で、上記最高裁判決に先立ち、この講義を担当してくださった先生が調査官として草案を書かれたと知りました! この判決を通して、私の法律への信頼が回復したため、何か運命的なものを感じてしまったのでした。。。
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