月曜日、東大であるシンポジウムが開かれた。パテントサロンというWebサイトで告知されていたのだが、その参加メンバーを見て垂涎。「日米の知的財産権法の大家、東京大学名誉教授 中山信弘、ハーバード大学教授 ローレンス・レッシグと、国立国会図書館長 長尾真が講演します。」と書いてあったからだ。中山先生のお名前は、今勉強中の講義の中で聴かない日はないほど頻繁に登場するし、レッシグ氏の本は2冊読んだけれど非常に刺激的な内容だった。そして長尾氏のことは、以前行われた山形浩生氏との対談を何かのサイトで読んで、「ずいぶん先進的な人が国立国会図書館長をやられてるんだなぁ」と感動した記憶があった。10時から16時40分という長時間のustreamによるリアルタイム配信だったが、聞ける限り聞いてみようと思ってパソコンの前に陣取った。 以下、メモをすべてまとめると膨大になってしまうので、簡略化して自分用備忘録として。
●午前の部
・開会挨拶:高木利久氏(ライフサイエンス統合データベースセンター)
・司会進行:野口祐子氏(クリエイティブコモンズ ジャパン、弁護士)
・「デジタル科学への最後のステップ」:大久保公策(国立遺伝学研究所)
・「Copyright in the Digital Age & Its Impact on Scientific Data Sharing」
:ローレンス・レッシグ(ハーバード ロースクール教授)
・「デジタル時代の著作権とイノベーション」
:中山信弘(東京大学名誉教授)
・Q & A(8名の方が質問)
午前の部の最初の、大久保氏のプレゼンは、本シンポジウムの問題提起の具体例として非常に面白かった。ご自身が構築されたデータベースを買いたいというアメリカのバイオベンチャーからの申し出や、ご自身の研究成果の公開を阻害する出版界の著作権の縛りという、わかりやすい事例紹介だった。日本が大学の独立行政法人化で「科学からも知財を」という流れになっていた頃、アメリカでは国主導でデータの共有化プロジェクトの流れが作られていたという皮肉は、日本の底の浅さを感じさせられて恥ずかしかった。
レッシグ先生の講演は、同時通訳がWeb上では聞けなかったので、大半を想像で補わざるを得なかったが、現在の研究テーマが「立法過程における倫理哲学」とのことで、私の関心とドンピシャで嬉しかった。Filmなどに代表される著作権処理の難しさが、科学研究にまで及んでおり、科学者もこの問題にアテンドしてほしいという話はよくわかったし、クリエイティブコモンズの活動がIPに反するものでなく、債権者の裁量に応じたシェアリングシステムなのだということもわかったのだが、“部屋にいる象の存在に気付かねばならない”という比喩の意味がよくわからず残念だった。かのレッシグ先生が日本の“同人誌”にも触れていらっしゃったのには笑った。
中山先生の講演は、現在の著作権法改正があまりに難しく追っかけ作業に追われているため、タイトルの“イノベーション”の方にまで話が及んでいなかった気がした。大家ご自身が、「著作権法の根幹たる創作意欲の源泉は、経済的なものでは測れない」とおっしゃっていたのが興味深く、現在の著作権法がいかに時代とミスマッチであるか、早急にフェアユース規定を立法化すべきだと考えておられるかが実感された。
質疑応答は、せっかくの錚々たるスピーカーに対するにはちょっと現実的すぎる質問ばかりで、もっと本質的な質問を投げる人がいてもよさそうなものなのに…とがっかりした。文化面と産業面等、法制を複線化すべきでは?という質問は、専門家の間でも議論されていると知り勉強になった。中山先生がコミケの世界を“侵害の巣窟”と呼びつつも、文化の創造という観点からは認めていらっしゃるのも面白かった(実際に即売会に足を運ばれたというが、想像できない~!)。
●午後の部
・司会進行:大久保氏
・「公表したものは共有財産」:長尾真(国立国会図書館)
・「情報の共有と独占について」:末吉亙(末吉綜合法律事務所)
・「OECDデータアクセスガイドラインおよび欧州におけるデータアクセス推進政策動向」
:深作裕喜子(INNOVMOND)
・パネルディスカッション
午後の部は、最後まで聞くことはできなかったが、パネルディスカッション前までの講演は聞くことができた。主に、スピーカーそれぞれの分野での情報に関する問題提起のような形で、国立国会図書館での文献公開の取り組み、ライフサイエンスのデータベース統合に関わった弁護士の立場からの契約の問題、OECD加盟国間での国をまたぐデータアクセスの難しさなどが紹介された。“本”と“科学”にまつわる長尾氏のお話が、私にとっては最もシンパシーが湧いた。末吉氏のお話では、まさに法律に基づいた契約が、今後は科学基盤整備の前段階で重要になるのを実感させられた。深作氏の取り組みは、データ共有の理想と、国家間の利益確保の刷り合わせがいかに難しいかを象徴しているようだった。Sci generia権というのは今回初めて聞いた言葉だったが、科学情報分野では知っておかなければならないようだ。
初心者には難しい話が多かったが、知財だの著作権だのといっても、国をまたいだ議論が必須になっているのだなぁと考えさせられた。本来国境のない科学活動が、ずいぶんと国の体制に縛られているのも不本意ながら考えなければならない点だとも実感した。個人的には、Googleブックの問題に関する各人の考え方を聞かせて欲しかったと思う。リアルタイム配信してくださった主催者の方々に感謝。
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