『天地明察』
少しずつ少しずつ、外出の際の移動中に読み進めていた『天地明察』を、先週末に読み終えた。日々なにげなく見て、あるのが当然と思っているカレンダーや月の蝕の予定が、太陽系の壮大な営みから導き出されていることに、改めて気づかせてくれるような希有な物語だった。
碁打ちにして数学者・天文学者・神道学者の顔も持つ渋川春海という才人が、天下泰平の江戸時代に、日本独自の暦を作ることに専心する物語。そこに、和算の祖たる関孝和との算学勝負などが絡んで、物語を盛り上げている。数十年に及ぶ彼の人生を追う形のため、途中、史実の羅列のようにならざるをえない部分はあるものの、戦国時代の騒乱後、武力よりも道理で世の中が収まるようになりつつある面白い時代を切り取って見せてもらった気がする。
初手天元の囲碁のインパクト、不動の星(北極星)による天測、正しいと思っていた暦の誤謬、そんなものものを通して、求道者たちのロマンに触れられる一品だ。(唯一気になったのは、連載小説だったためか、デジャビュ的に同じ内容が繰り返された所が2箇所ほどあったこと。)
時代小説なのにどこかファンタジックで、堅苦しくて難しいテーマをよくぞここまでのエンタテインメントに仕立ててくれました!と、沖方丁(うぶかたとう)さんの構成力に脱帽した!
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