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2010年12月28日 (火)

『奇跡の教室』

20101227  自分ひとりではあまり選ばないような本を手に取った。『エチ先生と“銀の匙”の子どもたち「奇跡の教室」』という本。時折拝見するスピカさんという方の「応援したいな、中学受験」というブログで紹介されていて、面白そうだと思ったから。灘中学で50年間教鞭をとったエチ先生という国語の先生の独特の授業を軸に取材・編集された本。
 私立中高の教育の良さとは?という、いまだに私自身がはっきりわからない疑問に、少しヒントをもらえるかな?と思って手に取ったのだが、ズバリ、こういう授業法は公立では無理だわ、と納得する以上に、エチ先生という一人の先生の矜持に満ちた生き様が魅力的で、一気に読まされた。
 灘校といえば、私の大学時代の恩師も灘校出身だったが、直近の興味は「なんで灘の入試には社会がないの?」ということだった。残念ながらその答えは本書にはなかったのだが、沿革の一部は私に親近感を抱かせるものだった。この中学は、昭和3年に白鶴・菊正宗・桜正宗という酒造会社が出資して設立された私立校だということ。を~!もしかして灘の先生はおいしい日本酒飲み放題?!なんていらん想像を楽しんだ
 それはともかく、6年間同じクラス持ち上がりで、教科担当も一貫して同じという本校だからこその授業にはびっくり。エチ先生は、中勘助の『銀の匙』という岩波文庫1冊を、ゆっくりゆっくり3年間かけて読み込むだけの授業をされたのだそうだ。卒業生たちは、その授業の成果を、卒業してから数十年経った頃に実感するという。詳しくは本書を読んでいただくしかないが、キャッチーな進学実績抜きに、教育の本質を考えさせられる内容だった。エチ先生の授業のような取り組みは、本来は家庭でなされるのが理想なのかも…とも感じた。日常で触れる小さな一つ一つのことに関心を持って、わからないことはとことん調べ、自分の意見を表明し、じっくり味わう。横道にそれることを楽しんで、興味の赴くまま、好きなことにのめりこむ。。。
 印象的だったのは、エチ先生のこの言葉。
「国語はすべての教科の基本です。“学ぶ力の背骨”なんです」―――その通りだと思う。思春期の6年間において、日頃の1コマ1コマの授業は本当に、人生を左右するくらい影響力のあるものだと思うけれど、それはやはり、私立とか公立なんてものとは無関係に、1対1の人間の出会いの場であり、先生個人の情熱と、それを受け取る生徒の人間性の問題なんだろうなぁ…と感じた。

 

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