『科学嫌いが日本を滅ぼす』
友人が仕事で関わったということでご紹介いただいた本、『科学嫌いが日本を滅ぼす』を拝読。
サイエンスライターの竹内薫氏が、ほぼ1年にわたり「新潮45」という雑誌に連載していた記事に加筆修正を加え、仕事歴20年の節目に書籍としてまとめられたのだそうだ。イギリスの「ネイチャー」とアメリカの「サイエンス」という二大科学雑誌を解剖することで、「日本の科学」についても考えようという意図だったようだが、3.11以降に発行となった本書の意味合いは、当初考えていたよりもずっと、ズッシリ重くなったのではないかと思う。
概ね楽しく読ませていただいたけれど、やはり最後は震災と原発事故に際しての科学を論じないわけにはいかず、じんわりと身につまされる科学技術不信について考えないわけにはいかなかった。奇しくも報道の日の昨日は、サンデーモーニングでの特番でグローバリゼーションについても取りざたされており、いろんな方面での割り切れない思考で、“家政婦のミタ”ではないけれど、笑ってる場合じゃないんじゃ…と思わされた。
竹内氏はあくまで、「科学応援団」として本書を著しているのだけれど、一見普遍的で中立公正なイメージの科学の世界も、多分に時代性や哲学や価値観や私利私欲といったものに影響されていることが、皮肉にも表されていて、霞を食べて科学に没頭することはかなわないんだ、ということを意識させられた。だからこそ、簡単に事業仕訳するようなことはせず、長期的・国家的なレベルで考えるべき、ということなんだろう。これまた皮肉なことに、事業仕訳で縮小された「はやぶさ」プロジェクトが、竹内氏の指摘通り、サイエンス誌の今年の成果トップ10入りしたというニュースも。。。
本書最後の鼎談では、同じ科学という名のもとでも、様々な解釈や意見がある中、最後にそれを判断して自分の中に落とし込むのは自分…と語られていた。難しい問題になればなるほど、その傾向は強まるのだろう。あやふやな予測や分析を糾弾する前に、自分の価値観や哲学をまずは見つめることが大切なのかもしれない。
…という数々の難しい問題提起の一方、竹内氏がサイエンスライターとしての道を歩み始めたきっかけとなる人生の分岐点での事件には唖然とした。一編集者の過失(故意?重過失?)が、その道を決定づけたとは、びっくり仰天だった。本書には歴史的な科学界スキャンダルの他、疑似科学に関連した章にはこうしたかなり気の毒な個人的事件の顛末も語られている。この事件によって研究者になり損ねた、とも言えるのかもしれないが、精力的に今後もお仕事を続けていかれることを応援しよう。日本ではまだなかなか理解されないサイエンスライターという仕事も、所変われば尊敬と羨望の的になるのだし! きっとこれからはますます、サイエンス・コミュニケーターの仕事は重要度を増すと思う。ご興味ある方は是非ご一読を!
| 固定リンク
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 『野の鳥の四季』(2023.05.30)
- 『いい子症候群の若者たち』(2023.05.08)
- 『ロシア点描』(2023.04.17)
- 『日本アニメの革新』(2023.04.14)
- 『楽園のカンヴァス』(2023.04.02)
コメント