『グーグル、アップルに負けない著作権法』
Kindle読書、『グーグル、アップルに負けない著作権法』(10/26読了)。
数年前に早稲田大学で行われたカンファレンスで、角川歴彦さんの講演を聴いた折、名だたるIT企業訪問記を熱く語っておられたが、その経験も踏まえた著作権回りの動向書。
実用書で涙が出たのは初めてかも。。。前半で、そこここにApple創業者のスティーブ・ジョブズ氏を偲ぶ回想が出てきて、どういうわけか泣けてきた(来月、彼の伝記的映画が公開になるな♪)。“IT三国志”とも“IT戦国時代”とも見えるここ数十年を、著者の経営活動の軌跡と並行してエキサイティングにまとめてくれてあり、読んでいてものすごく面白かった! 私の目下の問題意識にジャストミートで、一気に読み切った。
後半は、モノポリー者としてブランドとエコシステムを牛耳っている一部のアメリカ企業がどんどん市場のコントロールを獲得していく現状に対し、いかに時代にフィットした著作権法にしていけばいいか、また、クリエイターの原始的権利をきちんと尊重できる流通システムはどんな形がいいか、について、いろんな角度から検討材料を提供してくれていた。
国会図書館への納本を基盤にしたような“電子出版物流センター”の構想はすごく現実的な気がしたけれど、驚いたのは、1993年時点で提案されていた、北川善太郎先生の「コピーマート」構想。私が勝手に夢想する、“世界著作権機構”のようなものが世界中のすべての著作権を国際的に一括管理するイメージに似ていて興奮した。
また、クスリと笑ってしまったのが“プラーゲ事件”(1931年)。かのNHKがかつて、洋楽のほとんどを無許諾で使用していて、それが露呈した途端、一時期TV放送から洋楽が消えた…ということがあったのだとか! この事件がJASRAC設立のキッカケになったらしいことに驚きつつ、あの厳格な著作権契約と高いロイヤリティは、この時の反省に基づく倍返しか?!と思ったら笑えてきてしまったのだった。
紅白歌合戦の際の著作権処理がものすごく大変だという記述もあったが、どのくらいの大変さなのかを是非聞いてみたいと思う。著作権処理の煩わしさはわずかながらも自覚しているため、今後の流通システム検討の際には、そういう視点も考慮に入れてほしいと思った。
本書の最後には、中山信弘氏・川上量生氏・長尾 真氏・村瀬拓男氏・伊藤穣一氏との対談が収録されていて、これがまた面白かった。印象的だった伊藤穣一さんの言葉をメモメモ。
―― 今、クリエイティブコモンズの仲間と話しているのは、法律にあまりこだわるのではなく、もう少し常識に訴えようということなんです。 ――
私も切実に必要と感じるのは、法律に反しなければOKという空気の蔓延を阻止すること。塀の内と外を隔てる単なる恣意的な法律からは、できるだけ離れたところで活動するのが、幸せなことなんじゃないかということ。また、プラットフォームを握っている業界に、アイディアの価値の取り扱いが左右されるのは違うんじゃないかと思う。著作者がクリエイトしたものをどう流通させるかの意思決定は、極力著作者自身がコントロールできる状態にするのが、自然なことだろう。それができるように、法律やシステムが整備されていきますように!
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