水曜午後、有楽町朝日ホールで行われたJASRACシンポジウム“それは「越えられない壁」なのか?”に参加してきました。(「知的財産と調査」の123様が、ブログでご紹介くださったお陰です、ありがとうございます!)
3時間のシンポジウムだったのですが、これがまぁ、面白かったこと!!
「コンテンツ市場の活性化と権利者不明作品」という副題でしたが、市場の活性化よりも、“権利者不明作品”(Orphan Works)の権利処理をどうしたら円滑・効率的に実現できるか、という所がメインテーマになっていたような感触でした。
登壇者は以下の7名の方々。
・玉井 克哉 氏(東京大学先端科学技術研究センター教授)
・梶原 均 氏(NHK知財センター専任局長)
・関口 和一 氏(日経新聞社編集委員)
・川上 量生 氏(カドカワ株式会社代表取締役社長・株式会社ドワンゴ代表取締役会長)
・岸 博幸 氏(慶應義塾大学大学院教授・エイベックス取締役)
・三田 誠広 氏(小説家・公益社団法人日本文芸家協会副理事長)
・菅原 瑞夫 氏(一般社団法人 日本音楽著作権協会 理事長)
面白かった内容を直截にお伝えできないのが残念ですが、以下、メモ抜粋。
・裁定の多くは入試問題で、実質的には年20件ほど(カナダは制度開始後200件余)
・EUは「事務管理法理」にて
・北欧等の「拡大集中許諾」:オプトアウトしない限り許諾対象(英国2014/10月~)
・2015年10月:GoogleBooks訴訟→フェアユースということで決着
・平成21年から、実演家も裁定制度の対象に
・NHKが利用した裁定はほとんどが大河ドラマ(最高は「春日局」)
・相当の手続(CRIC掲載\8,100-)→裁定申告(1件\13,000-)→担保金供託(使用料分)を法務局へ→可否決定まで2か月ほど
(これじゃぁ、到底使う気にはなれません…)
・文芸家協会制度への加盟率は30%ほど
・政治家の一部は、著作権の存続期間延長は、交渉カードの1枚としか考えていない
・TVで映り込むような人にも、すべて権利処理手続は行われている(?!)
・使用料を預けておけば利用できるような仕組みを望む
・JASRACを基盤として集中管理と拡大許諾のシステムを作るのが得策
(JASRACとしては正直やりたくはない…ロングテール部分は奉仕活動の様相)
・国会図書館の取り組みは文化面ではよいが、ビジネス利用は要検討
・JASRAC管理案件は3000万~4000万件ほどあるが、実際使用されるのは300万件程
・拡大集中許諾の仕組み作りは、電電公社民営化や電力自由化のように行われるべき
(但し、JASRACには国のバックアップはもともとなく、信託のみで運営してきたという相違あり)
・会計処理上、JASRACは毎年実費弁償で、最終的にゼロ円にしている
(ユニバーサル・サービスとしての資金集めはできない)
・NHKオンデマンドはリスクを取って、無許諾で放送
・著作権法のありようは、予見可能性重視で、TPPを契機に見直すべき
・ネット時代の著作権は、従来の工業所有権に近くなっている(どの辺が?)
・権利は、使いやすい設計にするほど、マーケットは広がる
・ニコ動ユーザーの中には、権利があるのに、行使しない人も多い
(面白いこと、きわどいことを敢えてやる人が多い)
・JASRACのシステムを基盤に、各ジャンルの集中管理を進めつつ、先導は国がすべき
登壇者の主張としては、JASRACへの賛同具合はさまざまながらも、日本でJASRACほどの管理ができている団体はないため、ゼロからでなく、JASRACの仕組みを基盤にして、強化していくべきーーーという流れになっていました(菅原氏は個人的には嫌がっておられましたが…苦笑)。
途中、客席から質問を受け付ける時間があったので、よほど「JASRACのシステムを基盤に拡張していくのが効率的という方向にはある意味納得致しますが、それは、すべての権利者に公平なシステムになっているとお考えですか?」と質問しようかと思いましたが、完全アウェイになりそうな雰囲気だったので、ぐっと我慢(苦笑)。
川上氏の、「正しい正しくないという議論でなく、日本の国益という観点で、海外のプラットフォームに対抗できるような、戦闘力の高いプレイヤーをメインに据えて、方策を考えたい」というお話に対しては、確かにそのように意識的に立ち回らないと、10年後も同じ問題について同じように議論しているだけになってしまいそうに思えました。(川上氏は、そうは言っても、クリエイターの権利を優先して考えたいご様子でしたが…)
正直、私はどちらかというとアンチJASRACで、著作権全般の管理団体は別途国主導で作るべきではないかと感じていましたが、シンポジウムの思う壺にはまってしまったというべきか、ちょっと立ち位置が変わった気がします。登壇者の皆さんも、立場によって、主張は揺れるとおっしゃっていましたが、だからこそ難しい問題なのでしょう。
小さな特許事務所が、特許権や商標権の管理をするだけでも、時にOrphan Works問題(権利者の連絡先がわからない状態)に直面したりして面倒に感じるのに、JASRACは許諾業務や集金・ロイヤリティ分配も日常的に行っていると考えると、著作権管理の仕事って、本当に大変だろうと思われます。
(権利者が、当初CC0に自動設定されている成果物に対して、自主的に権利範囲設定を行うようにすれば、利用する側はだいぶ楽じゃないかな~?と妄想しますが、これは“正しい”在り方ではないのでしょうね~汗)
ともあれ、とても興味深いシンポジウムを、ありがとうございました!
最近のコメント