『あの日』
(本書を、発売日当日に買ってしまった私は、おそらく趣味が悪いのでしょう。ミーハーと言うべきか…。けれど、未だSTAP騒動について消化不良のままであり、問題意識に駆られ続けている人は、やはり手に取ってしまうのでは…? この件についてコメントすることは、賢明なことではないのかもしれませんが、納得いかないことを忘れることはできません。)
金曜から土曜にかけて、一気に読みました。付箋をペタペタ貼りながら…。読後にあっても、気持ちがざわついています。
報道を通しての断片的な情報しか得られなかった者としては、当事者の肉声的言い分に多少なりとも耳を傾けられたという意味で、一定の価値はあるのではないかと考えています。少なくとも、共同研究者間で、STAP細胞とSTAP幹細胞の作製が分担されていたなんて思っていなかったので、ごちゃ混ぜで報道に触れていた自分に気づかされました。
すべてが真実だとは思えない半面、すべてが嘘とも思えず、ナイーヴな一研究者の失態という一事では済まされない組織的な問題だと感じます…。
ともかく、生命倫理にも触れようかという最前線の業界にしては(この分野だけじゃないのでしょうが)、実験データについて、まっとうな統計学的配慮があまりにも欠如している気がして、真摯に自然の声を拾うべき科学者の姿勢として、いかがなものだろう?と思わされます(あらかじめ作り上げたストーリーに沿うデータだけを抽出して論文を書くという悪習と、あらかじめ作り上げたストーリーに沿う証拠だけを抽出して審査するという組織の相似形を見たようで、悪寒が走りました)。また、マスコミへの不信感は今まで以上に増幅されました。
門外漢がどうこう言えるレベルの話ではないですが、本書は夫(←須田氏の著書も読んでいる)や友人にも読んでもらい、是非考えを聴いてみたいです。
功を焦ること、人の功を妬むこと、無責任なこと、日和見なこと、よらば大樹なこと、調子ばかりいいこと、人任せなこと、多数から疎まれるものには触れたくないこと、都合の悪いことは隠すこと…そんな、誰の心の中にもきっと少しずつはあるような弱い気持ちが、たくさんの人たちの関わりの中で、運悪く雪だるま式に絡み合って生まれた悲劇ーーー。
2年前の今頃ネット上で読んだ、本著者のハーバード留学時代のレポート が、その後のなんとも皮肉な展開を際立たせています。。。未だ、一連の騒動の輪郭はぼやけたままですが、神様は全部お見通しだと思うことで、心のバランスを保っています。
【後日譚】 この機会に調査報告書も読んでみましたが、P14-15辺りはミステリーのままだし、P17以降などは本書と齟齬があり、論文著者のデータ管理があまりに杜撰…というか滅茶苦茶だったりで、何を信じていいのかすらわかりませんでした。P29以降の「まとめ」からは、ずいぶんと寛大な措置で温情をかけてもらっているようにしか見えず、本書の刊行に踏み切った行為がまさに“恩を仇で返す”仕打ちにしか見えません。この事件後、日本学術振興会により丸善からグリーンブックが出たそうで…。2月11日号の「週刊新潮」のインタビュー記事には、涙するしかありませんでした。改めてご冥福を祈りつつ、どうか先生の願いが実現することを祈りたい気持ちです。あとはもうひたすら科学的に、“publish or perish”ですね。
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