『熱く生きる』
心臓外科医の天野篤先生のご著書を拝読しました。息子の学校の講演会に来ていただけるとのことなので、講演会の抽選に当たるかどうかはさておき、その人となりの一端に触れるべく、手に取ってみたのでした。
天野先生は、言わずと知れた、天皇陛下の手術を執刀されたお医者様ですが、想像どおり、ただただ心臓外科手術ひとすじに研鑽を続けておられる先生でした。さまざまな提言に頷き納得して読み進めましたが、最後の「あとがき」でホロリと涙が出そうになりました。一週間のうち5~6日は病院に寝泊まりするような働き方をなさっていた時期も長かったそうですが、そんなことができたのは、家族を犠牲にしてきたから…という述懐を目にしたからです。「世のため人のために尽くす」という目標を徹底すると、どうしてもそんな働き方にならざるをえないのが、医師という仕事の定めかもしれず、息子さん娘さんが小さい頃は、双方さぞ寂しかったろうな、と想像しました。けれど、きっとそんなお父さんを、心の底から尊敬しているだろうと思ったら、ウルウルしてしまったのでした。
名医は、「病でなく人を治す、心を直す」というのも、至言だと思いました。医学部の入学試験に、面接を導入する動きがあるようですが、ふるいにかけるとかいう意味合いでなくても構わないので、せめて、人の命を預かる仕事を目指すという覚悟と信念を、はっきりと口頭で自分自身に対して宣言するような場としてだけでも、導入していただきたいものだと思います。AIが、囲碁ですら人間を負かし始めたご時世ですが、「人を治す」仕事は、人にしかできないように思えます。ことのほか人間味があり、反骨精神に貫かれた天野先生の求道ぶりに、ただただ脱帽の一冊でした。
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