『高橋是清自伝(上)』より抜粋
昨日開票結果が明らかとなったイギリスの国民投票。EU離脱派が過半数となりました!
そんな世界経済不穏な中、今週頭から読み始めた『高橋是清自伝』が、とにかく刺激的! まだ上巻を読み終えただけながら、明治7~14年頃の部分と、彼が37歳の頃の話を、一部備忘抜粋――。
生まれてすぐに里子に出され、14歳でアメリカに留学したものの、売り飛ばされて奴隷のように働かされた…という滑り出しからして仰天の人生。とにかく、英語と、素直さと人なつっこさと、常に道理をわきまえて考える姿勢と、楽観的な性格とで、次々に交友を広げる氏の生き様がスゴイ!
帰国後、是清氏が、文部省御用掛を拝命してまだひと月も経たない頃、新たに出来た農商務省で、発明専売・商標登録保護のことがわかる所管事務適任者はいないか?という詮議となったそうで、そこへ白羽の矢を立てられたのだとか。
――モーレー博士が、
「日本には著作権を保護する版権はあるが、発明または商標を保護する規定がないようだ。外国人は日本人が大変器用で、すぐに外国品を真似たり、商標を盗用したりして模造品を舶来品のようにして売り出しているのを非常に迷惑がっている。米国では発明、商標、版権の三つは、三つの智能的財産(Three Intellectual Properties)と称して財産中でも一番大切なものとしている故に、日本でも発明及び商標は版権と共に保護せねばならぬ」
といわれた。私はこれを聞いて大いに感じた。…(中略)…それで私は、文部省でもこれらの工業所有権を保護したらよかろうと、機会あるごとに田中大輔に対してもお話をしたがなかなか実現を見るに到らなかった。しかし私の説を聞いて、その必要ある所以は、何人もこれを認めたようであった。
その内に明治十四年の春となって、前述の通り農商務省が新設せられ、その卿には文部卿の河野敏鎌氏が転補せられ、また大輔には品川弥二郎氏が新任せられた。そこへ山岡次郎が私のことを推薦してくれたのでその方へ転じた次第であった。――(p.185-186)。
…(中略)…
…これまでの取調主任であった神鞭知常君に、今日までの経過を尋ねると、神鞭君は、「自分もまだ十分に研究していない、先年商業会議所の意見を聞いたがよいというので、東京と大阪の会議所に諮問した。ところが東京は商標登録条例の制定に反対したが、大阪は賛成であるばかりでなく、さらに発明専売の規則をも設けてもらいたいと申して来た」ということだった。東京会議所が反対したのは、今から考えると噴飯に堪えぬ理由からで、一言にしていうと商標と暖簾とを混同して、暖簾というものは永く忠勤した番頭に、その主家から分けて与えらるるものだ。それを登録して、登録者の専有物とし、一切他人が使えぬようにすることは我が商習慣に悖る。というのが反対の根本理由であった。――(p.187)
ほんの135年ほど前のことなのに、隔世の感。。。先日のジャック・マー氏の発言も、(あってはならないことですが)違った感慨をもって受け止めてしまいます。個人的には、発明の新規性の世界公知・公用基準が採用されたのが平成10年(?!)だというのがどうにも信じられずにいるのですが、明治期と現代との、“マネぶ”スタンスの違いは、どのへんにあるのでしょう。。。?
こうして、日本の特許・商標制度の礎作りに奔走した是清氏ですが、その後、友人たちに請われて鉱山の株式会社を共同で設立し、官を辞してペルーに赴くのですが、その鉱山選びがそもそも廃坑で、詐欺にあって大失敗。ほとんど無一文になってしまいました。。。
―― 友人たちの中にはいろいろ親切に奔走してくれて、あるいは北海道庁とか某県の知事とか郡長とかに世話しようと再び官途につくことを勧めてくれたが、私はいずれも厚く親切を謝して断った。というのは、これまで私が官途についたのは衣食のためにしたのではない。今日まではいつでも官を辞して差支えないだけの用意があったのである。従って上官のいうことでももし間違っていて正しくないと思うたときは、敢然これと議論して憚るところがなかった。
しかるに今や私は衣食のために苦慮せねばならぬ身分となっている。到底以前のように精神的に国家に尽すことは出来ない。時によれば自分の意に合わないことでも、上官の命であればこれを聞くことを余儀なくされぬとも限らない。かかる境遇の下で官途につくことはよろしくないと考えた。――(P.364)
37歳にして、3人のお子さんと奥様を連れ、田舎に引き籠って百姓をして生きていこう…と、家族を集めて説得するところで上巻は幕を閉じます。。。こんな人生って、アリ?! 果たしてここから、どのように日銀総裁・総理大臣・大蔵大臣にまでなっていくのか?! 彼が日本で初めて国債発行を実行したそうですが、下巻はそういうクライマックスの時代までフォローされていないようで、残念。思想的に共感する部分が多いので、『随想録』も外せそうにありません。
読書もほどほどにしなければ、、、とは思いつつ、食指は下巻へと伸びるのでした。。。
【『知財管理』誌(商標関連)必読メモ】 手前勝手に先輩と仰ぐ商標亭先生の寄稿記事メモ。
ゆっくり拝読できるのはいつの日かぁぁぁ~?!
・外部向け企業活動の名称に関する検討・考察(商標法第4条第1項第7号を中心として)
・並行輸入と商標権侵害 -並行輸入の抗弁における「同一人性の要件」及び「品質管理性の要件」-
・「腸能力」審決取消請求事件(平成19年(行ケ)第10042号 審決取消請求事件)
・不正使用取消審判規定における主観的要件と「混同」の保護主体に関する検討・考察
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