高橋是清『随想録』
7月最後の月曜夜、やっとこさっとこ『随想録』を読了。明治時代の人の文章を読むのは骨が折れました。
とはいえ、政治・経済・教育等について、広範な話が満載で、やや時代錯誤の部分や繰り返しもあったとはいえ、ついつい現在のこれらの問題に照らして、考えさせられました。
雑駁な感想としては、「変わりゆく世相と、繰り返される時代と、変わらず大切なもの」が混在した一冊だった…という感じでしょうか。経済人としての是清翁の言葉より、教育者としての彼の言葉の方が、ストンと腹に落ちたように思います。
お金の使い方も、能力の使い方も、“無駄にせず、有為に使う”という考え方が貫かれていました。
付箋箇所は大量ながら、いくつか抜粋してメモ。
八幡製鉄所で数年間、薄鉄板の製造指導をしていたドイツ人、ラウスキー氏の言葉。
――そもそも各階級の監督の任に在る者は、その部下をして自己の導くところに従はせねばならぬのであるが、これをなさんには、先づ彼自身が、その仕事に確信があり、自己の発する命令に自信がなければならぬ。しかるに日本の職工長や下級官吏は、未だ実地の練習が足りない。彼は職工程の実際上の経験が無い。元来良き職工長は優秀なる職工の中から選抜すべきものである。実際に十分の経験があり、責任を重んじ、精力絶倫なる職工でさへあれば、その外には何の資格も要らない。教育も普通教育で十分である。もし是非とも今少し教育を受けたいと云うなら夜学でも結構である。しかし工場の職工長にはその必要もあるまい。あまり学問が有過ぎる事は、却って彼のために有害の場合もある。学問あるがために、往々にして、真の力の源泉たる、実際的仕事を軽視し、且つ等閑に附する傾向がある。――(p.372~)
巻末近くの、女子教育についての章は、複雑な心持ちで読みました。
――生地を作る事は小学校と家庭の力に負うものであるから、良き子弟を育て上げるには、どうしても家庭に於ける教養ある主婦たり賢明なる母たるべき婦人の丹精を必要とする。――(p.380) 英語が堪能なことで、ひたすら西欧文化を取り入れ、工業による興国ばかり優先させた人かと思いきや、実のところはまったく違い、外から日本を見ることで、日本独自の文化の良さを把握し、農業を大切にすることが世界平和に資することだと考えていたようにお見受けしました。
――毎日毎日の疲労が、その夜その夜の眠りで恢復すると、今日もまだ働ける、と思っている。時には、何十万年か後かは知らないけれども、いつかは必ず、人間がみな神様になって人類全体が一つの国民になり、…つまりは、人種とか国家とかの区別などを考えないようになって、この地上が楽園となる日の来ることを、じっと想ってみることもある。――(p.155)
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