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2016年7月13日 (水)

『高橋是清自伝(下)』

20160711_3  上巻の波乱万丈の少年・青年時代とはうって変わって、三十代後半から五十代前半までの人生中盤が記された『高橋是清自伝』下巻は、一般の人にはややもすると非常に退屈なものかもしれません。ただひたすら、銀行家の資金調達の話が延々と続くからです。とはいえ私にとっては、上巻が、日本の商標・特許制度の基礎を築いた是清翁のご苦労を学びつつも、純粋に楽しめる内容だったのに対し、この下巻は、これまで知らなかった世界を垣間見せてくれた、稀有な本でした。
 まず、上下巻通して、この膨大で詳細な自伝を、是清翁の口述筆記と覚書を頼りに、ここまでまとめて下さった上塚司さんの根気よさと尽力に感謝したいです。そして、多忙な日々の中にあって、極めて細かい出来事まで漏らさずメモしていたらしき、是清翁の几帳面さに脱帽です。あくまで是清翁の目を通しての歴史なので、一面的な部分もあるのかもしれませんけれど、近代史をきちんと学ばずにきてしまった者にとって、これほど貴重な本もなかなかないのではないかと思います。また、この下巻を、金融界の人や政治家が読んだら、どんな感想を持つのかを、是非聴いてみたいです。
 下巻の白眉は、日露戦争の前後を通して、是清翁が、英米独仏からの4回の外債募集に奔走し、ことごとく成功に導く様なのですが、戦争には非常にお金がかかること、それが海外からも多く調達されていること、資本家や銀行家や政治家の思惑や駆け引きが、資金調達にも戦後処理にもことごとく影響を及ぼすこと、これらの人達の交流と信頼関係がとても重要であること等が、身に迫って感じられます。重要な仕事やポストが、次々に人脈で決まっていくようにも見え、人事っておそろしい…とも思いました(苦笑)。情報操作の話なんかもありますし。。。

 以下、付箋を付けた中からいくつかをメモ。
・P.91:正金銀行時代、是清翁が重役連に主張―正金は株主の利益をはかるためのみに作られたものではない。実にわが対外貿易発展のために設けられたる唯一の金融機関であって、その業務遂行に当たってはもとより国家の利益を先にせねばならぬ。―
・P.93:フランスで、生糸商人が破産した際、その商人の優れた人間性と、過去二十余年の実直な経営ぶりに鑑み、フランスの銀行が貸金を帳消しにし、今後の運転資金まで融通したのを知った是清翁が、その徳義に感激。
・P.99:―私は正金に入りて多少貢献したことありとせば、それはこの三名の同情と援助とに負うところのものであるといわざるを得ぬ。実に職務上協同して働く人々の和衷ほど貴くかつ快いものはないと、今もって思い出しては自ら幸福を感じている次第である。―
・P.123:―アメリカ人の事業の経営ぶりを見ると、自分の一代ではとても完成しないような大仕事に着手し、その成功は自分の息子か孫などの時代に期待するというような遠大な考えをもって事業を起すものが多い、これに反して日本人はどうも遠大の抱負経綸なく、己れ一代の内に出来上る事業でなければ仕事をしようとしない。これが日米両国人の気風のちがうところで、また事業の上に差等の起って来る所以である―
・p.129:―政府の財政膨張を防ぎ、かつその反省を促すことは誠に結構なことである。しかしながらいやしくも実業界の首脳部ともいうべき人々が、一斉に起って政府に反省を求めかつその効果あらしめんとするには、まずもって自分自らの同様の非難を受けないようにせねばならぬ。―
・P.142:是清翁が日銀副総裁時代、かつての学校勤務時代の後輩を日銀に誘い入れたら、その母親に怨まれた。―その当時は官尊民卑で、日本銀行のごときでも民間の実業界として賤しんだものだ。―
・P.154:―今から当時のことを追想すると、正金に勤めていた時は、あたかも野に咲いた菊のような気持であった。世間の人に認められるような派手な人気もないが、何の気苦労もなく極めてさっぱりした雰囲気であった。日本銀行の勤め心地はちょうど香気の高い色麗しい薔薇の花にも譬えようか、仕事は派手で世間にも知られるようになったが、その花の蔭には刺のあることを感ぜずにはおられなかった。―
・P.287:是清翁が、フランスの総理大臣ルビエ氏と初めて会談したときのこと。―この日総理大臣と私との対談は主としてコッホ氏通弁し、時としてヴェルヌイユ氏も通弁した。別れに臨み私が、仏語を操り得ずために直接情意を尽し能わざるを遺憾とする旨をいうと、ルビエ氏はこの時初めて不十分なる英語をもって、自分とて英語の素養に乏しく、遠来の珍客と直接快談をほしいままにすること能わざるを遺憾とする旨の話があった。その後ルビエ氏は、たびたび私の止宿しておるリッツ・ホテルに来て午餐を共にし、互いに懇意となるに従って普通の話は英語で直接話すようになった。―

 こう書くと一見、キレイゴトばかりのようにも見えてしまいますが、中には、お妾さんに禁酒を泣きつかれるような話なんかもあります(笑)。とはいえ、読めば読むほど、この人はきっと本当に、人と人の仲睦まじきを愉しみ、国のために動いていた人なんだなぁ…という感を強くしました。
 読むのにはかなり呻吟しましたが、文明開化以降の明治の空気の影で、異国で懸命に奮闘していた人の人生に触れられて、貴重な体験をさせていただきました!
(さて、次は『随想録』!!)

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