『電気革命』
先週、書店でふと手に取った、デイヴィッド・ボダニスの『電気革命』を読みました。4か月ほど前に読んだ『ロバート・フック ニュートンに消された男』が、17世紀~18世紀初頭にかけての話だったところ、今度の本は18世紀半ばから20世紀にかけての話で、前著が万有引力の法則発見に至るまでの話、後著は電気力に迫る話――ということで、すごく繋がり良く感じられました。
ボダニス氏の本を読むのは多分初めてのことと思いますが、サイモン・シン氏に負けず劣らず、科学者の人となりをうまく織り交ぜてグイグイ読ませてくれる学者さんでした。
本書の登場人物は主に以下の人々。
――アレッサンドロ・ボルタ、ジョセフ・ヘンリー、サミュエル・モールス、アレクサンダー・G・ベル、トーマス・エジソン、J・J・トムソン、マイケル・ファラデー、ウィリアム・トムソン、J・G・マクスウェル、H・ヘルツ、ロバート・ワトソン・ワット、アーサー・ハリス、A・チューリング、ウォルター・ブラッテン、ジョン・バーディーン、ウィリアム・ショックレー、アラン・ホジキン、アンドリュー・ハクスリー、オットー・レーヴィ ――
発明の系譜としては、コイル、電信、電話、電球、電気モーター、無線、レーダー、コンピュータ…と続き、最終章が脳とか気分になっていたのが非常に印象的でした。これらすべてに、電子(又はイオン←“旅人”という意味の言葉から派生しているのだとか)が関係し、人類のここ200年ほどは、電気を手なずけてきた歴史とも言える半面、電気なしには立ち行かない社会にもなってきているのが、まざまざと痛感されます。
これからの数十年は、いかにクリーンに安定的に電子を操れるかで、人類と地球の寿命が相当程度左右されそうですが、一方で、人間の意識とか気分とかいった電気的な活動の掘り下げも進んでいきそうです。
人間模様として、科学者や発明家のバックグラウンドも垣間見て、現実的な功名心や、単純な好奇心に突き動かされる人も多い一方、子どもたちを楽しませるためとか、耳の不自由な愛する人のためとか、そういう動機に基づく人もいて、人のココロあっての科学の進歩だなぁ…とも感じます。
バーディーンとブラッテンとともに、トランジスタの発明でノーベル物理学賞を受賞したショックレーですが、彼の名前に引き寄せられるようにして集まった有能な若者が、彼の利己的で功名心ばかりの人柄から離れていった結果、シリコンバレーが生まれた、というくだりには笑ってしまいました。
人柄の描写はごくごく断片的なので、本書からだけでは、ざっくりとした印象しかわかりませんが、個人的に、ジョセフ・ヘンリーとアレクサンダー・G・ベルが好きになりました。A・チューリングの不遇な人生は気の毒でしたが、人の幸不幸も全部飲みこんで、少しずつ少しずつ明らかになる世界の仕組みには、いつまでたっても畏敬の念を拭いきれません。
【導電性テープ】 そういえば、トヨタのWO/2015/064195という国際公開済み特許出願があるそうな。走行中の車体は、大気との摩擦で帯電することで空気抵抗が増すところ、導電性のテープを前後バンパーの両脇に貼ることで、その抵抗を低減する、というものだそうです。本書を読んだ後だと、何等かの効果は必ずあると思えるのですが、明細書には、その効果の“程”が数値で表現されていないので、よくわかりません。かなり微弱な効果に思えますが、どういう経緯でこれを出願することにしたんだろう?
【cf.】 今期、「タイムトラベル少女」なんてアニメをやっていたらしい…
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