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2016年9月10日 (土)

フバーバ・ヨーチノスカヤの自虐法

 『姉・米原万里 思い出は食欲とともに』のあと読み始めた『ユリイカ』の、米原さん関連を先週読了。米原さんの訃報に際し、以下の方々が文章を寄せていました。
 井上ユリさん・田丸公美子さん・多田富雄さん・池内紀さん・沼野充義さん・金沢美知子さん・徳永晴美さん・秋山豊寛さん・久保田智子さん・佐高信さん・佐藤優さん・平岡正明さん・山本皓一さん・太田峰夫さん・平松潤奈さん。
 人の印象というのは、接する人によって多少なりとも変貌するものとは思うものの、米原さんほど、様々な印象が混在する人も珍しい気がします。大胆不敵で、妖艶な魔女のようで、理知的で、容赦なく、高飛車のようで、臆病で、生真面目で、猥談好きで、感覚的で、滋味に溢れて、寂しがり屋で…。こんなにも支離滅裂な存在そのものが、なんだかロシア文学的で、ちょっと痛々しくもあり、神々しくもあり。
 現実世界でもし、私が米原さんと出逢っていたとしても、きっと友達にはならなかったろうと思うのに、どうしてこんなにも、彼女が書いたモノに惹かれるのか、不思議でなりません。自覚症状がなくても、どこか、似たような感性があるってことなのか。。。今となっては、何をどう言おうが、それを聞きつけて彼女がこてんぱんに私をこきおろし、完膚なきまでに叩きのめしてくれることもないのが、心の安寧ではありますが、その分、自虐的にあらねばな…と思ってしまいます。
 今回の『ユリイカ』を読んでいて、ホッコリしたのは、NHKの「シベリア大紀行 おろしや国酔夢譚の世界を行く」の取材中、米原さんが、同行の士たちにロシア名を付したお話。椎名誠さんは「アキレサンドル・シナメンスキー・ネルネンコ」(ラーメンに目が無く、寒さで熊が冬眠するようによく寝る、あきれた椎名さん)、ディレクターは「ガナーリン・ウルサコフ」(ソ連側の理不尽さに怒り心頭の怒鳴り声をあげる人)、写真家の山本さんは「コイチギン・オクレンコ」(撮影に熱中しすぎ、いつも集合時間に遅れる人)…といった塩梅。こういうエピソードからは、米原さんのユーモア溢れるあったかさを感じます。
 また、「いま、何か一つだけ、字を書くとしたら?」と問われて、米原さんが「坂」と書き、それに付けた注釈が印象的でした。「登るときには希望があって、降りるときには、…勇気がいる。まっすぐで平坦な道は退屈だ。わたしは起伏にとんだ道が好き」―――

 私が自分にロシア名を付けるとしたら、「フバーバ・ヨーチノスカヤ」かな?(人間が腐ってて、いくつになっても幼稚なババァ)――どんなに文章を書き連ねても、米原さんがもたらしてくれたインパクトには遠く及ばないけれど、自虐を重ねているうちに、超えられる壁もあるかもしれない。。。私も、「坂」を楽しんで生きたいな。
 

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