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2016年11月 9日 (水)

「ベストセラー 編集者パーキンズに捧ぐ」

20161106 映画「ベストセラー 編集者パーキンズに捧ぐ」を観ました。久しぶりに、「人と人の関係性の化学変化が心に沁み渡る~」と思える感動作! 創作の現場に関わるたくさんの人に、是非とも観ていただきたい佳品です。
 脚本の原題は『GENIUS』――”天才”という意味合いよりは、“守り神”という意味合いで観た方がしっくりきます。原作は、A.Scott Bergというピューリッツァー賞作家の処女作『名編集者パーキンズ』で、編集者と作家の物語ではあるのですが、どんな創作の現場にもある関係性――監督と俳優とか、大工と建築家とか、(弁理士と発明者とか…笑)――における、“父と息子”の物語。
 編集者役のColin Firthも、夭逝の天才作家トマス・ウルフ役のJude Lawも、私の大好きな俳優さん。「シャーロック・ホームズ」シリーズでは、人の心の機微にも敏感なワトスンになりきっていたJude Lawですが、本作では、マグマのような“業”を抱え、自分でも持て余しながら、書かずには救われない、ある意味“自己中”な若き作家を、見事に演じ切っていたように思います。また、「英国王のスピーチ」等で、抑え目なのに不思議な熱さを感じさせてくれたColin Firthの味は、出版という世界での黒子たる編集者マックス・パーキンズそのもののようでした。
 無名だったスコット・F・フィッツジェラルドやアーネスト・ヘミングウェイを見い出し、偉大な作家に育て上げたカリスマ編集者なのに、公的な記録が一切なかったことにフラストレーションを抱えた原作者のScott Bergが、大学の卒論でパーキンズを取り上げて以来、一体何年かけて映画化に漕ぎ付けたのか、、、その間の人間模様も、まさに創作のドラマに満ち満ちているようです。原作に惚れ込んだ脚本家のJohn Loganが、原作者にかけあって映画化権を買い、演劇監督から映画監督への足掛かりを探していたMichael Grandageに監督になるよう持ちかけ、幾人かの俳優・女優に白羽の矢が立ったり、是非とも演じさせてくれと売り込みがあったり…。こうした舞台裏話が紹介されているパンフレットも、とてもイイ出来です。日本のカリスマ編集者 見城徹氏の談話も読めます♪
 映画の内容は、ネタばれになってはいけないので書きませんが、ものすごく高いクオリティであることは請け合い! 上映館が少なめなのは残念ですが、良質なインディペンデントの面持ちで、丁寧に作られた絶品だと思います。
 20世紀前半の世界では、まだ作家は鉛筆で小説を書き、出版社はタイプライターで清書し、編集者も赤鉛筆で校正し、脱稿から刊行まで半年も要して活字を組んでいたんだなぁ…というのが、隔世の感でした(笑)。3万部でベストセラーと言っているのも、古き良き時代の出版の世界を感じさせるとともに、一冊の本の重みという点ではうらやましいような気すらしました。
 原作に感動して以来30年もの間、その感動を抱え続け、映画化を実現させてくれた、脚本家のJohn Logan氏に、心からの感謝を捧げます。

【20世紀の初頭と終盤】 それにつけても、インターネット前と後での「手紙」と「メール」の時間差の有無には歴然の差があるのに対し、「プライベートをなおざりにしてでも仕事するのは男」で「家庭を守り、待つのは女」という構図は、大して変わり映えしないようで(当たり前のように黒人女性の家政婦さんがいたのもビックリ)。――女性のワークライフバランスは、現代でも課題山積ですが、本日、初の女性アメリカ大統領登場なるか?!!

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