アニメ「この世界の片隅に」
先日ようやく、アニメーション映画「この世界の片隅に」を鑑賞することができました。
(ネタバレがあるかもしれませんので、ご注意を…)
意外にも、比較的若い男性が、多く観に来ていたことが、妙に私を安堵させました。
長らく応援できたことを幸せに思える、しなやかで芯のある、行間の深い見応えある作品だと感じます。
戦中・戦後の広島・呉が舞台というだけで、空気感は推して知るべしという感じですが、時代としての暗さや悲惨さではなく、絵を描くのが大好きな一人の女性の暮らしを、温かな眼差しで切り取る、片渕監督の前向きな思想が感じられる物語でした。アニメーションのフィルタリング効果ってスゴい!と、改めて実感できる、ほんわかしているのに重厚感のある、不思議な余韻です。
水汲みや針仕事や釜土での調理など、ただでさえ大変な時代に輪をかけて、戦争という辛い境遇まで背負わされ、たくさんのものを失うことになる“すずさん”。丁寧に身の回りに眼を凝らすからか、傍目にはとても鈍くさく、不器用な印象を与えながらも、少女から一人の女性へと(円形脱毛症になるくらい苦労しながら!)経験を重ね、お嫁さんから妻へ、妻から母へ、たくましく腰が据わっていく様が、「人間って、強いな」と思わせます。
私は不思議と、あまり涙は流しませんでしたが、ある1シーンだけ、ポロポロポロ…と泣けました。
それは、高台から呉の港に停泊する戦艦等を写生していた“すずさん”が、憲兵に密偵と疑われるシーン。家族は皆、“すずさん”の安穏とした性格を知り尽くしているため、それが誤解であることは百も承知なのですが、憲兵に変に逆らってもいけないと、ぐっと笑いをこらえてうつむいたまま。重苦しい空気を残し、憲兵が立ち去った後で、一同がひたすらお腹を抱えて笑い合う場面。緊張からの弛緩のせいか、心底滑稽に思えたのか、とにかく笑う笑う。。。一人むくれる“すずさん”の頭をポンポンする夫の周作さんも楽しそう。この家族団欒シーンが、私には妙に泣けて泣けて――(ハンカチを握りしめててヨカッタ!)
もう1つ印象的だったのは、機銃掃射のリアル感。音響効果もあいまってか、普通の日常の中の非日常が、恐ろしさを倍増させていました。
音の他に外せないのが、声優さん! 夫の周作さんの声が、「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」の団長、オルガ゙・イツカ役をしている細谷佳正さんだったので、内心キャーキャーしていた私ですが、あちらの作品では、子どもさえ凶器に変えて“生”を繋がなければならない戦争の悲惨さを真正面から引き受けているのに対し(毎週、本作を観ながら、中東の子どもたちのことを想っています)、こちらの作品では、恋女房に優しく寄り添い、戦争があってもなくても、お国のために尽力しそうな好青年になっていて、それもまた対照的な感じでした。
そして、主人公の”すずさん”の声は、女優の“のんさん”。いまだ“あまちゃん”の印象が強く残っているのが気がかりでしたが、原作のこうの史代ワールドを体現するかのような“あんのん”とした雰囲気と、ちょっと抜けていながらも気丈で一途な“すずさん”の一本気な感じを“地”で演じていたようで、最初の数分で、すっかり馴染んでしまいました。
ともあれ、声高に叫ぶわけでなく、「戦争は不毛!」と、ココロに刻める映画です。
(登場人物の名前がすべて、元素名をモチーフに命名されているとかいないとか…)
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