『ニコラ・テスラ 秘密の告白』
テスラ本1冊目読了。テスラは、1856年7月9日生まれ、1943年1月7日没(86歳)ですが、本書は、彼が63歳のときに上梓した“My Inventions: The Autobiography of Nikola Tesla”という自伝を第一部とし、44歳のときに上梓した“The Problem of Increasing Human Energy”を第二部として、違う時代に書かれた2つの本を合わせた構成になっています。これを読み終えて真っ先に感じたのは、「エジソン自身が書いた文章も読んでみないと…」ということと、「この2つの文章は、本当に同じ人間が書いたものだろうか??」ということ。
エジソンが、たたき上げの“オヤジ”的なざっくばらんで気の置けない好印象なのに対し、テスラの肖像は、理知的でアカデミックで妖艶な雰囲気を多分に醸していますが、44歳当時に書かれた第二部は、まさにそんな肖像にふさわしい理路整然とした書きぶりなのに対し、63歳当時に書かれた第一部は、なんだか支離滅裂に感じられ、ちょっと“壊れた”感すら抱いてしまった私。単に私の錯覚だとは思いますが、「35歳くらいのときに自身の研究の安全性証明のため、高周波電流を身体に流して見せた際の後遺症で、脳がやられちゃったんじゃ…?」なんて想像してしまうくらい、同じ人間の文章とは思えなかったのです(翻訳のせい??)。
第一部では、テスラとエジソンの絡みの部分がやはり気になりました(P.78-80辺り)。一時期エジソンの元で働いたテスラですが、口約束の報酬を反故にされ、怒り心頭で辞めてしまったものの、生涯エジソンのことを意識し続けていたのが感じられました。この二人を結び付けた、エジソンの右腕だったチャールズ・バチェラーが偉かったんだなぁ…とつくづく感じますが、出逢うべくして出逢ったとも思え、運命の悪戯とは恐ろしい…と思います。以下、ざっくりと、エジソンとテスラの対比メモ(ほぼ私見です)。
・二人とも、ものすごい読書家でメモ魔
・二人とも、マーク・トゥエインが好きだった
・二人とも、働きものの賢母を持った
・二人とも、遠い未来に思いを馳せていた
・二人とも、昼夜を問わず働き続けることを厭わなかった
・エジソンは結婚し6人の子どももいたが、テスラは生涯独身
・エジソンの父は放浪癖があったが、テスラの父は厳格な宗教者
・エジソンは部下の才能を見抜いて何でも任せたが、テスラは不明
・エジソンは実子にさえ冷酷な一面もあったが、テスラは鳩にすら愛情深かった
・エジソンは直流押し、テスラは交流押し
・エジソンは兄弟が多く、テスラは少ない(尊敬する兄を早くに亡くす)
第一部には、エジソンとの逸話の他にも、女性の嗜好だとか、子どもの頃から見続けていた幻覚だとか、脳内実験のことだとか、ギャンブルにハマった時期のこととか、自身を自動機械(オートマトン)と認識していたことなどなど、かなり奇抜で異色な人物像の片鱗が、至る所に散りばめられています。
一方の第二部は、「生命はいったいどこから来て、どこへ向かっているのか?」というゴーギャンのような根源的な問いかけなど、文章自体が美しくて(P.134辺り)、ハイゼンベルクの『部分と全体』を思わせる、哲学的な思索の跡がそこここに。。。「現代の科学によれば、太陽は過去、地球は現在、月は未来である」という言葉も印象的でした。「私たち一人ひとりが、全体の一部にすぎない…」という認識のもと、“人類エネルギー”というものの増加促進の方策・増加阻害力の弱体化について考え続け、「地球自体が、大量の電気エネルギーを蓄えた蓄電池」だとも。エネルギーの無線伝送についても生涯考え続けていたようで、先日打ち上げられた“こうのとり6号”での“宇宙エレベータ”実験にも通ずるようなイメージの思考実験も繰り返していたようです。
私が、これまでの読書で抱いた印象として、エジソンは目の前の課題を実施可能なところまで限りなく安く効率的に実現することに主に注力したのに対し、テスラは脳内実験を繰り返した後の完璧なモデルの実現のために試行錯誤したように見え、アプローチの仕方は違えど、お互い、高度に抽象化した上位概念で遠い先の未来まで捉え、飽くなき努力を続けていたことは共通するように感じています。二人が脳内に抱いていた発明の数々に触れると、現代の発明の多くはデジャヴな感覚に陥りますが、実施可能なところまで落とし込むことの難しさも実感します。二人が晩年に関心を持っていた「霊界との交信」という言葉はさておき、すべてのものを“エネルギー”という形で捉えて考察していた様子には、痛く感銘を受けたのでした。
(cf.:wired11月号によると、テスラが現代にいたら間違いなく自閉症とのこと…笑)
今度は、第三者が書いたテスラの伝記も読みたいし、エジソン直筆の文章も読んでみたいし、エジソン・コレクションに励んだヘンリー・幸田さんという方の本も読みたい気持ちでいっぱいですが、今はもっと、別に読むべきものがあるので、考えものです…。(商標審査基準とか、『著作権判例百選〔第5版〕』とか…)
←「トリップ・トラップ」と「自炊代行」と「ときメモ」と「釣りゲーム」と「ひこにゃん」と「ロクラクII」と「まねきTV」と「Winny」だけはガッツリ読もう♪
【Tesla Museum】 来年NewYork近郊で開館となるテスラ・ミュージアムが、アメリカ物理学会から“World Historic Site”に選ばれたそうです! イーロン・マスク氏はこのために、100万ドルの寄付をしているとか?! セルビアの博物館と併せ、行ってみたいなぁ~。
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