『快人エジソン 奇才は21世紀に蘇る』
本書は、日本人の浜田和幸氏が、フロリダにある「エジソン冬の屋敷」の隠れ部屋を訪れた際、ベッド脇に並べられた本の中に、日本の歴史書を見つけたことに端を発し、エジソンがかなりの日本人贔屓だったことを知ったことから、執筆されたものです。
同じエジソンの伝記とはいえ、前回読んだ『エジソン 20世紀を発明した男』とは、ずいぶん趣が異なりました。前回本が、伝記作家による極力中立的な視点でのデータ本だったのに比べ、今回の本は、奇才に惚れ込んだ上で、晩年の、特に東洋思想家的な未来学者としてのエジソンにフィーチャーしているような印象でした(ところどころ、両者の情報が異なる部分もあり、完璧な情報はやはり、直に自分で調べないとですね)。
本書には、エジソンの言葉がずいぶん引用されており、それらが肉声を聴くかのように沁みました。その中に、エジソンが、「この世の中のものは、全て関連し合っている――」という思想に基づいて、単品の発明でなく、社会への広がりをも必ず意識していたという記載がありました。これはまさに、禅の思想に通ずるもので、鈴木大拙本に傾倒する私としては、見過ごせない一節でした!
ものすごくお茶目で、ジョークが大好きでユーモアに溢れたエジソンを浮き彫りにしてくれているのと同時に、道徳や教育を何よりも大切に思う真摯な側面も強調されており、著者の入れ込み具合が読者にも伝わってくる感じ。記憶や夢についての研究を、フロイトと同時期に行っていたり、霊とのコミュニケーション装置を考案したりするところは、あまたの学者の行きつく先と同じ志向で、「心の進化こそがこれからの人間には必要」という遺言にも、ついつい頷いてしまいました。どうしても、物事を突き詰めていくと、オカルティックな部分に足を踏み入れざるを得なくなるのは、自然の成り行きなのでしょうか…。いやいや、もはや、精神とか心も立派な研究対象になってきていますよね?!
“Little people in my brain”と称して、宇宙の知性が、一人ひとりの精神に宿っていると感じ、「生まれたての頭脳ほど、Little peopleにとって住みやすい場所はない」といった発言もしていたのだとか。自身の数々の発明は、単に、宇宙の知性を感受して表現したまで、といった感覚にとらわれてもいたらしく、歳を重ねることでの謙虚さの現われか、大真面目にそう感じていたのか、もっと詳しく知りたいところです。
アメリカでは、「エジソン文献研究プロジェクト」というのが進行中で、エジソン国立歴史記念館とラトガース大学とが共同で、彼の遺した膨大なノートやメモ(大学ノートサイズで400~500万ページ分もある?!)の整理・分析を行っているそうですが、今現在の進捗はいかほどなのか…(もう完了しているとか?)?
本書に記載されている、エジソンと交流のあった日本人としては、渋沢栄一氏、金子堅太郎氏、御木本幸吉氏、野口英世氏、星一氏。そして、数年間、エジソンの元で働いていた岡部芳郎氏! 20世紀前半の日本での発明ブームの影には、これらの方々の尽力もあったのかもしれません。(エジソンは、鉱山事業で痛い目に遭っていますが、鉱山で痛い目をみた高橋是清翁も同時代人ですね!)
数日前、中村伊知哉先生が、『知財立国が危ない』という書籍をブログで紹介されていましたが、モノに溢れ満ち足りているかに見える今日、“創造することの価値”の再評価と、そのための教育、そして司法・法律家の未来志向・国際化が、とても重要なのでは、、、と感じています。
【日産の広報さん】 去年あたりはZ会のCMが面白いなぁ~と思っていましたが、最近は、日産の広報戦略に注目しています。矢沢永吉さんのエジソン発言もさることながら(もうちょっと、e-Powerの新しさをアピールした方がいいような気もしますが…)、「逃げ恥」のドラマ内で、キャリアウーマンの百合さんに、「最近の若い人は、運転しないよね~」と言わせた後、「車だと、思いのほか遠くまで行けるのに…」というニュアンスの発言をさせたときには、ドキュ~ンと胸を撃ち抜かれました! エジソンも、その友人のフォードも、車の最大の価値は、これまで行けなかった未知の世界へのアクセスが良くなることだと考えており、単に移動が楽になる、という価値観では捉えていなかったことと、すごくフィットしていて、「座布団一枚!」とニコニコしました(笑)。
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