『楽しく学べる「知財」入門』
『女子大生マイの特許ファイル』、『すばらしき特殊特許の世界』を以前拝読しましたが、その著者であり知財啓蒙家の稲森謙太郎先生(ペンネーム)が、満を持し、本名で上梓された講談社現代新書『楽しく学べる「知財」入門』を読了(カバー画像を引用させていただきます)。
序章を除くと全4章で構成され、第1章は著作権(66p.)、第2章は商標権(76p.)、第3章は特許・実用新案・意匠権(66p.)、第4章は知財の複合化と知財もどき(46p.)ということで、これまでのご著書が主に特許を中心に書かれていたのに対し、著作権と商標権と知財権の複合化等に多くのページが割かれていたのが特徴的でした。しかも、特許については前作や前々作の“とんでも”感を引きずって、一般読者にとっての“楽しさ”を優先している風なのに比べ、他の知財権については、面白く読ませてくれつつも、かなり考えさせられる内容で、権利処理関係の仕事に携わる方々には必読かも、と思えました。
よくぞこれだけの分量の具体例を新書に盛り込めた!と感嘆するほど、印象的な事例が散りばめられ、毎度おなじみの、「疑問点は当事者に直接投げかけ、回答を引用する」スタイルも健在!! また、2017年1月時点で触れられる限りの最新ケースもふんだんに取り込まれています!!! さらに、通常の知財の専門書では、審査認定や審決や判決の妥当性について、あまり独自の感想等は書かれないのが常ですが、忌憚ない感想や事例の裏事情の推測に軽く触れることで、一般読者の興味喚起を促しているようにも感じられました。
個人的に特に感じたのは、法的論点はきちんと検討されるべきであるのは当然ながら、現実の商取引や契約・権利処理では、当事者間の関係性や考え方次第で、法的にはうまく説明できない運用が数多くなされているんだ、という皮肉。私自身、過去の仕事を振り返ると、権利者にわざわざ許諾を得る必要のない件についても、後々のことを考えて、念のため“お断りを入れて”おいたことが多々あったなぁ…。
本書の終わりの方で、徳島県にある大塚国際美術館が紹介されていますが、ここでは、世界25か国190以上の美術館が所蔵する西洋名画の複製を観ることができるそうです。ニュースで紹介されていた時も「行きたい!」と思いましたが、本書を読んでますます行きたくなりました♪
既存の権利をできるだけ長く存続させて、活動のアドバンテージを確保することも大切な半面、一定のメリットを享受した後は、思い切って広い利用に供することも、重要な社会貢献になりうることを踏まえておかないとだなぁ~と感じます。
書店や図書館に行くと、その膨大な文芸著作の山に眩暈がしてしまう私でしたが、本書を読んで以降は、覚醒している限り、身の回りに溢れる知財の山に眩暈がしてしまいそうになっています(泣)。
長年の知財ウォッチの成果を余すところなくご紹介いただき、とても勉強になりました。ありがとうございました!
【法のデザイン】 次は、『法のデザイン』、行きま~す。
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