ちょっと時間がかかってしまいましたが、水野祐さんの『Legal Design』を読了。法律関連書としては異形の、お洒落な本。例によって付箋だらけ(笑)。「法とアーキテクチャの関係性を考察することが狙いの本」ですが、私としては、“インターネット後”の世代の人が、法律を通して社会をどのように見ているかを知るのが目的でした。以下、付箋箇所を見返しながら、印象的だった部分をメモ。
・p.6:「アウトバーン・デザイン」の思想は、法律にも応用できるのではないか
・p.11:現実の後追いしかできない「法の遅れ」という現象は、…インターネット以降の情報技術の動向が性急であることを前提に、人類史上かつてないほど広がっているように感じられる
・p.27:著作権制度が設計している「余白」がサイバーカスケード/ネットリンチにより「浸食」される可能性があるのではないか、という危惧
・p.35:クリエイティブ・コモンズは、国が決めた著作権法という法律ではなく、クリエイターとユーザーが互いに合意した条件でコンテンツの利用を簡易に、迅速に許諾する仕組み
・p.39:著作権制度を抜本的にリフォーム…その一つは、「禁止権」を中心とした著作権制度から「報酬請求権」を中心とした著作権制度にリフォームするもの
・p.41:北欧には「自然享受権」という権利が認められている
・p.68:私たちは、法という社会のOSを更新する必要がある。それは同時に、私たちのマインドセットも更新しなければならないことを意味する
・p.80:音楽史が進むなかで、メロディやコードといった有限な部分を権利で縛っていけば、やがて作れる音楽はなくなってしまうだろう
・p.83:同時多発的かつ双方向なリミックス文化の加速は、インターネット/デジタル技術によるリミックス文化の成熟、そして時代が「複製の時代」から「改変の時代」へ移行してきていることを示している
・p.87:日本には、原盤権を一括して管理運用できるような機関は存在しない
・p.93:現代の楽曲の創作性として、グルーヴやフィーリング、アンビエンスといったものも含まれるべきだ、含まれるとしてどの程度保護されるべきか、といった検討や主張は一定の正当性を持つようにも思われる
・p.95:音楽はアップデートを繰り返すソフトウェアのようになってくるのかもしれない
・p.99:ブライアン・イーノの『音楽の共有』からの抜粋文:音楽に関する権利の帰属や収益の配分に関する見直し…
・p.127:これまでのような…複製権に基づく出版ではなく、…送信可能化権に基づいて行われる出版が中心になる時代が来るだろう
・p.133:元来のアートにおける「一品制作」という性質から導かれる「所有」や「オリジナル」という特徴は、インターネット/デジタル技術による複製容易性および非劣化性と相克する
・p.142:フランスでは、いわゆる「追及権」という権利が法律上認められている
・p.166:写真が物質からデータに変化するにともなって、インターネットというアーキテクチャのなかでは、写真は誰のものか?というクリシェも変容せざるを得ない
・p.217:デザイナー・坂部三樹郎が…ファッションのフリーカルチャー性を部分的に肯定的に捉える言説を残している…
・p.225:アーカイヴの射程をいかに捉えても、そこに変わらず課題として生じてくるのが権利処理の問題である
・p.242:(情報量を残すことが最良?)…西洋音楽はなぜ楽譜という形で伝承されるのか。演劇はなぜ戯曲という形で残されるのか…
・p.253:従来は、情報と物質との間に境界・ハードルがあったため、制作者側にとっても、情報は著作権、物質は意匠登録すれば意匠権で保護されるという切り分けを前提とする二元論で一定の理解は可能であった。しかしながら…情報と物質の境界が融解し、シームレスになったとき、…納得感のあるものになるかは甚だ疑わしい
・p.269:現在日本には、820万戸以上の空き家があり、7戸に1戸以上は空き家だという報告がある
・p.288:附合契約から契約自由の原則への回帰の流れ
・p.316:出生、婚姻、離婚、養子など、それぞれのステージにおいて、従来法が予定していたモデルではない多様性が生まれてきている
・p.320:政治は国家や民族、家族、個人という概念と、それぞれの間に生まれる境界の存在を前提にしている。一方で、インターネットをはじめとする情報技術は…
・p.330:情報化社会において、法律の解釈・運用により生まれる「余白」や契約をいかに設計・デザインしていくかというリーガルデザインの思想が本書のテーマ…
私のような年寄りですら、いろいろ「?」を感じる法律構成なのだから、インターネット後の若い世代の人には、時代錯誤と感じられる部分が多々あるのだろうなぁ~、と思っていましたが、「法の遅れ」を受容して、自分なりに方向性を模索しながら考察を続ける実務家の姿勢に触れ、できるところからトライしてみる堅実性を見習いたいな、と思わされました。(私の眼の黒いうちに、少なくとも産業財産権法くらいは、万国共通化されないかな~…)
唯一、やや残念だったのは、誤植がとても多かったこと。以下、ご参考までに、誤植とおぼしき記載のあったページ数のみ列挙して、増刷時の推敲に貢献したいと思います。
18、29、45、55、56、63、71、74、75、86、92、110、119、137、141、175、192、193、197、210、213、214、217、219、234、300、317、336
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