『トヨトミの野望』
遅読の私が、たった2日で完読したKindle版『トヨトミの野望 小説・巨大自動車企業』――尾張の某自動車企業を想起せざるをえない、というか、一瞬“暴露本”?とも思えてしまうほど、関係各位には登場人物の現実の顔が思い浮かんでしまう冷や汗本かもしれません。とはいえ、“事実は小説よりも奇なり”を無理やり小説仕立てにしたような、剛胆な叩き上げ経営者をめぐる群像劇で、抜群の面白さ。
日本の名だたる大企業が軒並み苦境に立つ21世紀初頭、いわゆる大企業病が蔓延し、寄らば大樹の軟弱化する社員が増える中でも、ビジネスの最前線では命を削って、自社や日本の将来を守ろうとする人たちがいることを感じられました。極度のコスト・カットや、在庫軽減の負担を下請けに回すような施策のすべてを支持するわけではありませんが、“統べる”ということの厳しさや責任の重さは、想像を絶するもので、非情にならざるを得ない場面も多々あることを、経営者視点で納得したり。
個人的には、「腐らず諦めず、動き続ければなにかに当たる」というフレーズに勇気をもらいました。物語の中に、2人の新聞記者が出てくるのですが、もしかしたらこの2人のうちのどちらか、あるいは2人が、本書の著者ではないかと想像します。そして、この2人が惚れ込んだ型破りの稀代の経営者の功績が、有名自動車企業の歴史から葬り去られそうな状況を打開すべく、本書が執筆されたのでは…とも。さらに、“ペンは剣より強し”を地でいくように、昨今では珍しい硬派な記者が、時代の趨勢を読み、自動車産業に参入するニューフェイスの動きを予期して、国内の自動車企業各社に対し、「出世レースで右往左往している暇なんてない、ガソリンを燃やしてる場合じゃない!」と檄を飛ばし鼓舞しているようにも感じました。奇しくも、読後の翌朝のNHKニュースでは、スズキ自動車の社長が登場し、“選択と集中”による環境配慮を声高に宣言していました。トランプ政権下、ますます激動の時代に入りそうですが、本書の“動く人達”のバイタリティを教師として、果敢に苦境に立ち向かって欲しいなぁ!
世界を相手にするには、ロビー活動が非常に重要であるとは思っていましたが、本書を読むまで、アメリカでのロビー活動には、政府への登録が必要だとは知りませんでした。あとは、公聴会のシーンで、プリンス社長の苦境を救うかのような発言をした、ケンタッキー州の女性議員がカッコよかった! 日本の政治家にも見習って欲しい!!
大きな企業の一社員にとって、とかく人事異動での勢力地図の塗り替えは、恰好の酒の肴になりがちですが、“自分はどっち派”なんてセコい見方でなく、本書のような大所高所の視野が大事だな、と思いました。
新年度で、街でも新人さんと思しきリクルートスーツの若者をよく見かける季節、まだまだ自分の貢献は小さくとも、大きな流れを良い方に変えていく意識で、日々の小さな一つひとつの仕事に取り組んで欲しいな、と思います。あ、それ以前に、私自身がもっと、何かへの貢献を意識した仕事をしないと(笑)!
刺激的で面白い本を、ありがとうございました!
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