『火花』
先週、又吉さんの『火花』の文庫版を、義母のショートステイ先の最寄り駅近くのTSUTAYAで見掛けたので、思わず買って一気読みしました。又吉さんの朴訥とした語り口が好きな私としては、芥川賞の選考基準とか、好きな人の“いらん内面”とか、考えたくないことを考えさせられる気がして、ずっと読むのを避けていたのですが。。。
「主人公(著者?)はしごくまっとうな人だった…」というのと、「天然のあほんだらって、私のこれまでの人生ではまだお目にかかっていないかも…」という、不思議な読後感でした。スパークスというお笑いコンビが、芸人の道をあきらめて別の道に進むことを決めた後の、最後の漫才の中でのセリフ――
「世界の常識を覆すような漫才をやるために、この道に入りました。僕達が覆せたのは、努力は必ず報われる、という素敵な言葉だけです」というのを電車の中で読んだ私は、不覚にもウルウルしてしまいました。あほんだらに生きたくて、夢中で走り続けたけれど、どうにもあほんだらにはなり切れず、夢破れて常識的に歩むしか道がなかった若者の哀しさ――。昔は、生粋の“あほんだら”こそが芸術家だったような気もするのですが、最近の芸術家は“まっとう”になりすぎているかも…と思わされる一冊でした。文芸賞とかも含め、狂気の芸術家…みたいなのって、最近は見掛けなくなった気がします。そういう人は、現代の資本主義社会では生き残れず、昨今のSNS社会では抹殺されてしまうのか…。
太宰治や芥川龍之介に心酔する又吉さんにとって、この“まっとうな人”の物語が芥川賞を受賞したことも、自分が芸人として大成していることも、実は複雑な心境なのかもしれないな…と思いながら、本を閉じました。でも、人の評価を気にするより、自分の好きなことを好きなようにやれる幸せを尊重するなら、もらえるものは何だってもらっておくべきだよね。多くの人が、“あほんだら”に生きたい!と思うものでしょうが、人間弱いもんで、やっぱり“まっとう”に生きる道を選んじゃうんですよね~。人生って、切ないのぉ。(巻末の、又吉さんから芥川への手紙文を読んだら、『劇場』より先に、『戯作三昧』をポチっとな、してしまいました)
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