『アキラとあきら』
池井戸潤さんの『アキラとあきら』を、先週末に読了。
バンカーの存在意義を、ストーリー仕立てで教えられたような読後感。一度でいいから、バンカーがしたためた渾身の稟議書というのを読んでみたいと思いました。損益計算書や貸借対照表の数字から、企業の来し方・行く末までを全方位的に読み取る術、できるものなら身に付けたい…(笑)。
また、「人の目を曇らせるのは、無意味な“劣等感”や“自己顕示欲”なんだなぁ…」というのが、しみじみ痛感される一冊でもありました。ダブル主人公の「アキラとあきら」は、いずれ劣らぬ優秀な二人。優秀だから目が曇らないのか、目が澄んでいるから優秀なのか、そこは“鶏と卵”のようですが、事に当たる場合に、いかに余計な雑念を交えずに熟慮できるかの大切さを教えられます。(普通に考えたら、このタイトルで、同期の超優秀なこの二人の間に、何かしら確執めいたものを想像しますが、嫉妬らしきものすら微塵の描写もないところが不思議なほどでした)
WOWOWオンラインで7月9日からドラマが始まるようですが、上述の“数字を読む”面白さを、ドラマではどうやって再現するんだろう…? 同じテーマでも、書く編集者により全然様相を異にする企画書になるように、同じストーリー展開でも、書く作家によって全然様相を異にする小説になるように、同じ発明でも、書く特許技術者によって全然様相を異にする明細書になるように、同じ罪状でも、書く弁護士によって全然様相を異にする訴状になるように、同じ融資額でも、書くバンカーによって全然様相を異にする稟議書になるらしい。。。その醍醐味こそが、本当は本書の最大の見せ場なんだと思うんですが、素人にはその違いがわからないのがなんとも残念!
“粉飾”という言葉も何度か登場し、そのたびに、目下行われているであろう某電機メーカーの決算処理に思いを馳せました。世間のそこここで、“チョイと鉛筆をなめる”程度のことは見過ごされているのでは…と感じてしまいますが、巧妙な粉飾も、見る人が見て、然るべく追及すれば、案外見抜けるような印象を本書からは受けました。監査の能力もピンキリなんだろうか…と感じつつ、金策の綱渡り感もまた、ある種のドラマなんだなぁ…と痛感。
今や、多くの人が会社勤めをし、サラリーをもらって生活しているわけですが、その陰では、社員やその家族の生活を担う経営者と銀行との、丁々発止の資金繰りが必ずや行われている――そういう意味では、様々な人の人生の縮図を見るようで、途中、繁華街の交差点にある喫茶店でマン・ウォッチングしながら読み進めたりしました。お金の問題は、日々の暮らしと切っても切れない現代人の日常――銀行にドラマあり!…と、つくづく感じます。
人のお金で商売する銀行や証券会社等に対して、なんとなく割り切れないものを感じることも多いのですが、本書に出てくるような「お金を“人”に貸す」人たちになら、手数料や利子を払っても惜しくないかも…と思いました(笑)。池井戸作品を読むといつも、現役時代にきっと、いろいろ悩み苦しみあがいてきたであろう池井戸さんご本人の仕事ぶりが感じられ、等身大の迫真・切迫感を味わいます。今回も、一気に2日で読ませていただきました。力作を、ありがとうございました!
PS:p.623と624に、「彬」であるべきところが「瑛」になってしまっている誤植を2か所発見。あとは前半に1か所、文字抜けがあったかな…?
| 固定リンク
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 『野の鳥の四季』(2023.05.30)
- 『いい子症候群の若者たち』(2023.05.08)
- 『ロシア点描』(2023.04.17)
- 『日本アニメの革新』(2023.04.14)
- 『楽園のカンヴァス』(2023.04.02)
コメント