『できない脳ほど自信過剰』
先週月曜日に、標題の本を読了。まず、コラムをまとめた本にありがちな通り、タイトルと内容はほぼ整合していません。全63個のコラム中の、3番目のコラムの内容から捻りだされたキャッチーなタイトルのようです。というわけで、読み始めた動機の、「我が家で見受けられる自信過剰脳は“どう”できない脳なのか?」という疑問は、なんら解決を見ないままです(苦笑)。
また、「脳の可塑性を研究」しておられる著者の独自見解や研究内容が開陳されるというコラムでもありませんでした。むしろ、日々のルーチンとして目を通しておられる「ネイチャー」「サイエンス」「セル」その他の学術雑誌から、一般の人が興味を持ちそうで、比較的易しく解説できそうなテーマを拾ってきては、日常のレベルに押し下げて検討し、池谷先生独特の感想を交えて紹介する、というスタイルが踏襲されています。日常の小さな描写→それに関連する最新知見の紹介→著者なりの検討→身に引き寄せた感想…といった感じの流れが、62回繰り返され、最後に「人工知能が活躍する時代に」と題して、これからの時代の、深層学習との付き合い方を指南してくださっています。日々これだけの量の論文に目を通すのは、さぞかし大変なことだろう…と想像しながら拝読しました。
もはや、自己書換が実装された人工シナプスなんてものまで出来、MITからは「人工芸術はヒトの創作性に疑問を投じる」なんてレビューが出てしまう時代。ヒトの脳って、今後はどんな風に使っていくのが最適なのか? 本書を読んで、これからはそんなことをツラツラと考えながら日々を過ごすことになりそうです。
例によって付箋だらけになったページの中でも、特に印象深かった記載をいくつかメモ。
・「自分の思考について、その参照元を示せるのが一流。二流は借用であることを忘れている」(p.28)
・「食欲がないのに食べると健康を損なうように、興味がないのに勉強しても記憶にとどまらない」(p.74)
・二足歩行を実行する精巧な神経メカニズムは未だ未解明。ただ、答えは脳でなく、脚にあった(p.87)
・ヒトだけが持っている大切なもの。それは笑顔(p.135)
・ヒトは遺伝子と文化という二つの情報を後世に「二重継承」する(p.137)
・美食とは、さしずめ「舌の性感マッサージ」といって語弊はない(p.151)
・脳は「プロアクティブ(先を読んで行動すること)な組織」(p.167)
・後悔は落胆よりも高度な感情(p.178)
・ミクロビオーム(腸内にどんな細菌が住んでいるか)研究が、自閉症や肥満や嗜好解明にも貢献(p.193)
・iPS由来の再生脳に「心」は宿るか?(p.214)
・デザイナーベビーの特許がアメリカで登録に(p.216)
・「京」は1千万ワットの電力を消費するが、「脳」はわずか20ワット(p.226)
【シンクロ?!】 本書を読み終え、次の『進化しすぎた脳』を読み始めた日の晩、たまたま付けたTBSの番組「人間とは何だ…!?」を見ていたら、なんと、本書著者の池谷先生が出演されていました!!
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