『単純な脳、複雑な「私」』
ずいぶん時間がかかってしまいましたが、先日ようやく、『単純な脳、複雑な「私」』を読了。個人的には、前作の『進化しすぎた脳』のインパクトに引きずられて、本書の後半はややダレて読んでしまいました(汗)。
こういうのが脳科学なのかな~?という素朴な印象。どちらかと言うと、心理学とか認知科学とか社会学とかコンピュータ・シミュレーションとか哲学の分野にも感じられ、まぁ、脳の話は分野横断的にならざるをえないのかもなぁ…と思ったり。倫理的にも、人間の脳で行える実験には限りがあるでしょうし。。。
ひと昔前、「1/f のゆらぎ」なんてのが流行ったのをなつかしみつつ、“何かしらの規則性がベキ則として現れる”とか、“機能と構造の相互作用を通じて生物は環境に適応していく”という言葉が、印象的でした。最近流行りのメディテーションは、「1/f のゆらぎ」(ノイズ)の自主的コントロールと言えそうです。また、フィードフォワードとフィードバックの重要性も語られていましたが、フィードバックはいわば、昨今の“見える化”とも言えそう。
先日のNHKスペシャル「腎臓が寿命を決める」と併せて考えると、“自律神経”の“自律”が、「意志とは無関係に独立して作動している」ことを意味するとしても、腎臓の働きをフィードバックする仕組みが作れれば、ある程度は制御可能になるかも…という期待を抱けます。
著者によると、「心」は、ニューロンのフィードバック回路によって生じる「創発」の産物だとのこと。そうなると、“豊かな心”のためには、フィードバック回路をたくさん回す方がいいのかな?
最終部分には、脳科学とは、”脳を脳で考える学問”だから、その論理構造上(入れ子構造≒リカージョン)、そもそも「解けない謎」に挑む学問ではないか、と書かれていました。
読後感としては、なんというかこう、自分が見ているもの、感じていること、思っていることなどが、かなりの部分、錯覚や幻覚なんじゃないかと思えてしまい、不安な心持ちにさせられました。一方、人類は“言葉”を手にしたことで、リカージョンが可能になり、「無限」や「有限」を意識できるようになったのだとしたら、本当に言葉という発明品は、エデンの園の知恵の実のようだな…とも感じました。
まだ当面、認知症と対面する中で、“脳”の不思議と対峙する日々が続きそうです。
【ノーベル物理学賞】 脳の中で重要な役割を果たす“ノイズ”ですが、重力波観測では慎重に取り除くべき存在。昨日のノーベル物理学賞には、残念ながら日本人は含まれませんでしたが、精密観測でノイズと闘う人は数知れず。素人的には、この世のノイズなんて、除ききれるもんじゃないような気がしてしまいますが、日夜そういう仕事に取り組む人もいるんですねぇ。次なる読書は久々に、重力波関係の初歩の本でも探してみる??
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