『量子コンピュータが人工知能を加速する』
むか~し昔、お金の勉強と思って、いっとき投資を試みて痛い目に遭った私。先日、その時に作った口座を管理する銀行から、「マイナンバーの登録」を要請する手紙が届きました。法改正によって、過去に投資経験がある人も、登録が必要になったとのこと。登録方法は2種類あり、証明書類と併せて紙で郵送する方法と、スマホで電子的に登録する方法だそうで。。。
そんな折、読んでいたのが、本書『量子コンピュータが人工知能を加速する』でした。これによれば、量子コンピュータがもうちょっと進化すれば、SSL等の公開鍵暗号の肝である素因数分解なんて、あっという間に解けるようになってしまうそうで――
。上記のマイナンバー登録の件については、郵送も、電子的登録も、どっちもどっちでリスクはあるものですが、私は郵送を選択(笑)。公開鍵暗号方式より、郵便屋さんの良識を信頼した次第
。
それはさておき、本書の面白さ、ハンパない!! “量子アニーリング”という、量子コンピュータの目下の2原理のうちの1つを、最初に提唱したと言われる東工大出身の先生によって書かれているのですが、素人にも読みやすく、とても噛み砕かれています。“アニーリング”というのは“焼きなまし”という意味だそうですが、私は読みながら、刀鍛冶が、熱く熱した鉄を鍛えて、徐々に温度を下げ、堅牢な刀を作るかのような様子を想像しました。量子アニーリングにおいては、この“温度”が横磁場に、“鉄”が量子ビットに、“刀鍛冶”が「ビット同士の相互作用を設定する技術者」に対応しているような感じだったからです。
また、世の中に多数存在する“組み合わせ最適化問題”の、厳密解を求めるために考案された量子アニーリング方式ですが、例えば、山のてっぺんからスキー板を滑らせて、どのようなシュプールを描くか?という問題に対し、従来の計算機や量子ゲート式のマシンでは、シュプール曲線を計算で求めようとしていたのに対し、量子アニーリング方式のマシンでは、実際にスキー板を滑らせてみるかのようなアプローチ!(実際はここに、トンネル効果なんかも入ってくるようで…)。
まだまだ不完全で、数々の課題が横たわっているようですが、フィンテックだのリーガルテックだのに加え、いずれはメディテックとかフィジテックとかスポーツテックとかアートテックとかケアテックとか、とにかくありとあらゆる分野への応用が可能になりそうな気配には、興奮を隠せません(費用対効果の問題はありますが…)。
とはいえ、皮肉なことに、本書を読むことで、人間の脳やヒトの成長・可塑性の凄さが痛感され、シンギュラリティ(汎用人工知能の実現)は、まだかなり遠い未来に思えてしまいました。一方、量子アニーリング方式を採用したD-Waveに当初眉唾だった研究者が、GoogleやNASAがそれを採用した途端、掌を返すように信じ始めたのには、「AI (知性) の研究者が、自分の頭で考えなくてどうする~?!」というツッコミも…(苦笑)。
とはいえ、量子アニーリングにおいて量子ビット同士の“相互作用”の設定が重要なのと同様、量子アニーリングの理論が、分野横断的な相互作用の中から生まれたことは、基礎科学の未知の可能性を示唆するものとして、心愉しく感じられました。当時は怪しげに思われていた理論を、現実化しようと思い立ったD-Waveのローズと、それを後押ししたMITのロイドとファーヒとの、奇跡のような相互作用には、憧憬の念を抱きました。
ともあれ、とかく慎重・厳密な従来の日本のやり方には、もう少し、“とりあえずやってみる”という衝動的な力強さも必要かな~?という、ド素人的な印象が、読後に強く残ったのでした。。。
(次は、『エクサスケールの衝撃』を読もうかどうしようか…??)
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