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2018年3月16日 (金)

『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』

20180311_3  息子が一日で完読し、「おもしろい!」と太鼓判を押した本を、今週読みました。“東ロボくん”プロジェクトで著名な新井紀子氏の本。
 昔、高校教師になった折、「勉強面ではまだ、高校入学レベルに達していないお子さんがかなりいる…」と感じました。また、社会に出ていろいろな仕事をみるにつけ、「世の中には、携わるのに大学を出る必要のなさそうな仕事がたくさんある…」とも感じました。さらに、息子が小学校に通っている時、「義務教育期間にはもっと、作文を日常的に書かせ、それを添削しないとダメなんじゃ…?」と思った覚えがあります。
 本書は、そんな過去の問題意識の正当性を裏付けてくれるような一冊でした。AI 技術の研究の一環から、「AI を大学受験に挑戦させる」というプロジェクトを興し、そこから数々の副産物を提示してくださっている著者。AI 技術はいまのところ数学でしかないこと、これまでの技術革新とAI 技術による変革は質が異なること、社会にはAI で代替される仕事もされない仕事もあること、「意味」を理解することの重要さ…。

 本書を読んだ私の端的な感想は、「AI には出来ず、人間がやらなければいけない肝腎なことは、人間を総体的に評価すること」だということです。そして、「現状のAI 技術の弱点は、それを生み出し利用しようとする人の価値観が、かなり偏っていることだろうな…」ということ。さらに、「各教科ごとの攻略にまったく異なるアプローチを要するAI 技術を俯瞰すると、人間の能力ってホントにすごいな…」という感動。。。

 著者が選んだ「ロボットは大学入試に合格できるか?」という課題は、5教科8科目にわたる様々な分野の問題解決に当たるという点で、ものすごいチャレンジ! あまりにチャレンジングで、AI の能力の限界が即座に見えて、やる気が失せてしまうのでは…とさえ思えました。が、思いのほか実績を上げている様子に、驚きを隠せません。
 本の中で、子どもたちの学力は「国立Sクラス、国公立Aクラス、国公立Bクラス、私立Sクラス、私立Aクラス、私立Bクラス、私立Cクラス」の7つに分けられています。現状でもすでに“東ロボくん”は、MARCHには合格できるレベルだとのこと(それなら、弁理士試験の短答問題も70%くらいは取れそう…?)。そしておそらく、目下AI に携わる人たちは、SやAクラスの人たちがメインでしょう。ペーパーテストでの能力評価は、客観的であり、ある意味公平であり、明確な指標であって、AI の能力評価に利用するのは合理的だし、数学に基づく技術である以上、SやAクラスの数学好きな人たちが取り扱うことになるのは当然のことと思えます。
 ただ、全体的なアプローチとして、理数系の研究者ばかりが問題解決を模索するのと併行して、文系の人がもし、この課題を前にしたら、どんなアプローチを提案するんだろう?という興味も湧きます。
 後半、「どんな時代になっても必要な力は、文章読解力であろう」と示してくれた著者の考えに、強く共感しました。そして、まだ問題文の意味すら理解できないAI が、MARCHの試験に合格してしまうという事実に、「センター試験の評価軸って、このままでいいのかな?」との疑念も。だからこその大学入試改革なのだろうと思いますが、人の能力を評価するのは、手間も時間もかかる大仕事であることが痛感されます。
 “意味を正しく理解する力”――これは、当面AI には涵養できない力でしょう。意味を正しく理解しないことには、お互いに分かり合えないし、共感もできない…。そういう意味で、“シンギュラリティ”のわたくし的な定義は、「AI と分かり合える時が来たとき」と言えるかもしれません。
 また、人の幸せって、“人生のうちにどのくらい、自分の価値を認めてくれる人に出逢えるか”にかかっているようにも感じました。この先、AI が文章読解力を高め、東大合格を果たし、小学校の文章題も解けるようになり、人それぞれの“良さ”を評価できるようになったら、そんなAI は、とっても魅力的なことでしょうね~。

 息子が、本書のどのへんを“おもしろい”と感じたのかは、おいおいインタビューしてみたいと思いますが、私は、著者の“社会共有知研究センター長”という肩書を、とても素敵だと思いました。知識の多寡で能力評価するのでなく、有用な知識はできるだけシェアしていく社会――ベーシック・インカムの実現には懐疑的な著者ですが、「文章の意味を正しく理解する力をきちんと身に付けること」は、ある種、ベーシック・インカムなんじゃないかな~、と感じました。
 AI に仕事を奪われる談義が花盛りの中、一味違う視点を授けてくださった本書に感謝!
(オープンプロジェクトだそうなので、何か面白いアプローチを思いついたら、参加してみたいな~♪)
 

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