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2018年5月17日 (木)

知財権侵害の刑事罰

 道端で、タバコのポイ捨てをするような人を見掛けると、内心、「禁錮だ、禁錮~!」と思ってしまう私ですが、刑事罰というのはそう簡単に適用・執行されるものではなく――

 先日、Hofstra Univ.のIrina D. Mantaさんという方の講演を聴く機会がありました。知財権侵害の刑事罰について研究していらっしゃり、商標と著作権がご専門とのこと。
 不勉強でお恥ずかしい限りですが、なんと、アメリカの特許権侵害に関しては、刑事罰が科されることはないのだとか?! 日本で直接侵害をしようものなら、「10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金、又は併科」と規定されているのに?!(まぁ刑事事件になることはまずないとは思いますが)。
 一方、著作権や商標権の侵害に関しては、アメリカにも刑事罰規定があり、ちょうどエジソンが生きた19世紀末(1897年)頃から、侵害に対するサンクションが取沙汰されるようになり、複製技術とインターネットの発展に伴って、罰則は強まるばかりなのだそうです。
 「電子窃盗禁止法(No Electronic Theft Act:1997年)」で初めて刑事罰が規定されたものの、侵害の45%は保護観察どまりだったため、「デジタル窃盗抑止及び著作権損害賠償改善法案(Digital Theft Deterrence and Copyright Damages Improvement Act:1999年)」で、さらに罰則強化されたのだとか。

 通常、何か争いが起きた際は、「話し合い」→「コミュニティ関与」→「民事裁判」→「刑事裁判」と、よりパワフルな解決法に移行することになるわけですが、刑事罰はこの中でも最後の手段。著作権・商標権分野で刑事罰が認められるのは、それらの侵害が窃盗に類似するからとのこと。ただ、現実の窃盗と、知財権侵害とでは、社会的な暴力性も違えば、競合関係も違い、同一視することはできない。その点、知財権侵害はむしろ、器物損壊や不法侵入に類似しているかも、、、とも。にもかかわらず、これら現実の犯罪より、著作権・商標権侵害の罰金の方が高くなっているのはおかしい!と問題提起されていました。
 また、アメリカでは、特許権侵害についても罰則を設けるべきとの声もあるものの、100%完璧な審査というのが難しく、権利化後に無効となるケースもあることから、法の確実性と権利範囲の明確性が保証されないというジレンマにより、ペンディングとなっているようです。
 厳格化を強く求める製薬関係の業界もあれば、自身もいつ侵害者側に回るか知れないIT関連の業界もあり、必要性や有効性が定まらないのが、ペンディングの理由だとも。ただ、厳格化を求める団体のロビーイング費用が伸びを見せる中、いつ状況が一変してもおかしくない、ともおっしゃっていました。

 そんな中、早くから刑事罰が科されるようになった著作権・商標権分野では昨今、個人の侵害者に対して、見せしめのような何万ドルもの罰金が課され、その重すぎる罰則を問題視する反動が起きているとのこと。「こんなことをしていたら、インターネットが壊れてしまう!」と立ち上がった草の根の活動が、Googleのような巨大プラットフォームと手を組んで、SOPA/PIPAといった法案の廃案を求めたのだそうです。これらの活動の新たな戦場は、営業秘密関連法の連邦法化に移っていったとのこと。

 日本でも、営業秘密の保護強化に伴い、罰則も強化されています。法定刑のMAXが上がっても、量刑は適正になされるという見方もあるものの、なかなか微妙な問題だな、、、と感じます。
 タバコのポイ捨てひとつ取っても、一度注意されたら、その後は二度と同じことをしない人もいれば、何度注意されても繰り返す人もいるでしょうし、そういう違いを考慮せずに科刑するのはいかがなものかとも思います(未来は見えないから仕方ないけれど…)。

 Manta女史の講演で最も共感したのは、目下彼女が執筆中だという本について。一般の人の、法律へのアクセシビリティを上げるための書籍だとのこと。発明が、時代とともにどんどん専門家の団体戦の様相を濃くするのに対し、著作物の創作や起業は、インターネット以降、それまでギャラリーだった個人が続々と参入しているという現実。技術的にできるからやるだけで、法律や罰則を気にかける習慣がないような人が膨大にいると考えると、貴重なお仕事だと思いました。知財教育の目的にも、そういう側面が多分にあるかもな~と感じたのでした。

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