著作権の保護期間延長と無力感
先週の講義で、TPP11が発効した際の著作権の保護期間の延長(著作者の死後50年から70年へ)についての議論がありました。
デジタルアーカイヴに務める図書館司書さんや、コンテンツ業界に身を置く人ででもない限り、たいていの著作物の利用は、“引用”その他の“制限規定”でしのげてしまうため、この延長で実害を痛感する人というのは少ないのでしょうが、それでも、ほとんどの人が延長には反対の意見でした。「どうして著作者の孫世代にまで保護を及ぼさなければならないのか」という疑問に対し、先生が、「でも、不動産をもっている人などは、それを子孫に相続させて、延々保護を及ぼしますしね」とおっしゃいました。
そんな中、ある方が、「過去には、保護期間が30年だったり、33→35→37→38年と徐々に延長されてきた歴史上、学者の先生方の間では、常に議論があったと思うのですが、その時の議論が、今回の延長議論に活かされることはなかったのでしょうか?」と質問。――「私の知る限りは、活かされてないと思います。」
別の方が、「いわゆるロビー活動によるバイアス効果の方が、市井の声より大きいということですかね」との意見――「おおかたの学者は、延長に反対の立場だと思いますが、そういうパワーに比べて、学者の力は弱いですからね」。。。日本中の学者の先生方をもってしても、少数のロビイストにかなわないのか、はたまた国際調和に添う国策に立てついてまで反対する強いインセンティヴを持ちえないのか、、、。
このやりとりを聴いて、「ああ、こういうパワーに対抗する力も、このネット時代なら集めやすい気がするのになぁ…」と、どうにか逆向きのムーヴメントにつながる声を集められないものか、と、無力感に苛まれました。
日本国内の所有者不明の土地が、九州と同じくらいの面積に達しているというニュースもあるように、権利者が不明確ないわゆる“孤児著作物”も、保護期間内著作物を日本全土に喩えれば、本州と同じくらいの割合に達しているのでは、、、と想像してしまいます。せめて、放置され忘れ去られるままになっている著作物だけでも、思い切って(ある意味乱暴に)パブリックドメイン化してもいいんじゃなかろうか…。
同期の方との雑談で、「権利者探索に係る“相当の努力”の最終手続きとして、“オーファンワークス実証事業”へのDB登録を義務化して、ごく安価な補償金供託だけで利用可能にできたらいいですよね~」と妄想を膨らませたり…(苦笑)。あとは、生前の臓器提供意思表明のように、権利者自らによる保護期間設定を登録する仕組みを作るとか、、、(クリエイティブ・コモンズはありますが、まだ設定がわかりにくい…)。
このデジタル化・ネットワーク化による著作物爆発は、即、文化遺産爆発になるわけですが、文化遺産のアーカイヴをどこまで充実させるべきかは、費用対効果の検討も不可避の、難しい問題ですね。(Googleがやってくれるというものを、無下にしてしまった損失は、相当大きいと個人的に思っています)
【ソフトウェアの著作権登録】 日本では極めて低調な利用状況だと思われる、ソフトウェアの著作権登録。中国では去年、70万件超の登録があったのだとか、、、?!
【欧州議会、改革案否決】 欧州議会では、巨大プラットフォームでのニュース利用や不正コンテンツのアップロード規制に関して、議論の継続を決めたようです。なんとなく、プラットフォームを挟んで、権利者と利用者がせめぎあっているようにも見えます。この手の議論でも、ロビー活動が行われているのでしょうか…?
| 固定リンク
「学問・資格」カテゴリの記事
- 調査の果て(2024.07.30)
- 論文や査読や明細書と、OpenAI(2024.05.07)
- 知識と図書と図書館と…(2024.03.26)
- 令和5年不正競争防止法等改正説明会(2024.02.29)
- コンセント制度の導入と氏名商標の要件緩和(2024.02.16)
コメント