不競法2条1項3号
自分が生み出した仕事の成果が、思ってもいなかったような使い方をされる、という経験をしたことのある人は、結構いるのではないかと思います。
不競法の2条1項3号の“商品形態模倣”の規定も、まさにそのような例かもしれません。知的財産権が防止する最たるものは、フリーライド。つまり、他人の成果に安易にただ乗りして、自分は何の創意工夫もせずにマネをする姑息な行為です。およそ“知的”な行為とはいえず、こうした行為を禁止するため、権利を主張することは多いと思われます。ただ、特許や意匠や商標や著作権など、それなりの新規性や創作性を求められる権利は、登録の必要があったり、そのための時間や費用が必要だったりで、あまりユーザーフレンドリーとはいえません。そんな中、それなりの工夫をして生み出した商品の形態を、デッドコピーしてマネするような輩を比較的簡易に排斥する目的で作られたのが、同号です。需要者が商品を選択する場面で、視覚的・触覚的に与えられる印象は、商品形態に拠るところが大きく、先行者のそれをマネて、酷似したものを市場投入する後発者を戒める規定と考えられます。
ところが、小熊タオルセット事件や宅配鮨事件などにもみられるように、模倣の程度や、通常の使用とはどういう状況かなど、明確な基準が定まっておらず、適用範囲に関する予測可能性は高いとはいえないようです。
デッドコピーだけを取り締まるという基準にした場合、悪意の後発者は簡単に模倣の範囲から逃れられますし、かといって、酷似の程度はケースバイケースで、人によっても感じ方はずいぶん違う、、、。かくして、当初の法制の意図から微妙にズレ、各人各様の使い方で運用がなされるようになる――。
来年以降に導入される不競法の「限定提供データ」関連(2条7項や19条1項8号ロなど)は、どのような運用がなされていくのか、、、。“言葉は生き物”とはよく言われますが、“法律も生き物”ですね~。
(優生保護法の検証も進んでいるようですが、忖度もたいがいにしないと…)
【先発・後発?】 ところで、2条1項3号の規定は、“先発者の市場先行の利益”を守る、という趣旨からすると、先に考案していた者のデザインが不正取得され、模倣品が先に市場投入されて、考案者の商品が後発になってしまった場合には、使えないんだろうか…? “フリーライド”という意味では、通じるところがあるように思えるんですが、、、。むしろ、ファーストランナーとなりうるはずだった者の“市場先行の機会”すら奪う、最も悪質なパターンと言えなくもないような、、、。特許の先使用における“実施の準備”の状態を、“先行”と捉える適用は無理筋なんでしょうか…?(講義中は、あまりの論点外しで訊くに訊けなかった…)
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