林先生最終講義
職場の先輩のご紹介により、先日、林紘一郎教授の最終講義の聴講に伺いました。題して、「情報を生業にして56年:何が分かったか」――。
大学を卒業してから、半世紀以上も実務と研究を両立されてこられたというだけで尊敬に値しますが、その間に上梓された書籍が51冊、論文が24編と伺い、圧倒されました。お話はとてもフランクで面白く、長年のご経験に裏打ちされた哲学にはとても共感させられました。特に、先生が体現されてこられた「理論と実践の程よい関係」は大切だと常日頃から思っています。研究者が理論だけ構築しても現実は変わらないし、現実をよりよくしていくには理論的考察は不可欠で、両者がうまく手を携える必要があるわけだけれど、その距離感が難しい。。。さらには、理論上の厳密な「最適解」が必ずしも現実に符合するわけではなく、ある程度の“良い加減さ”を組み込んだ「次善策」で現実をやりくりせざるをえないというのも、まったくその通りだと感じました。
林先生は、情報法という分野を切り拓いて来られた方ですが、デジタル化・インターネット化がいよいよマルチメディアや3次元構造にまで及んできた昨今、個々人の通信の秘密やセキュリティ・個人情報保護などと相俟って、無体財にまつわる法律整備が本当に重要な現代的課題であることが痛感されます。退任されても、まだまだやりたいことは山積のご様子で、その好奇心に頭が下がりました。
この日の関連資料の一部は、勁草書房さんの「けいそうビブリオフィル」のサイトにアップされるご予定だそうだし、「サイバー灯台」というサイトでは、「情報法のリーガル・マインド その日その日」というブログも連載されていらっしゃるとのことなので、折に触れて拝読したいと思います。
この日、別の意味で感じ入ったのは、先生のこの一言。「家事というものが、いかに隠れたものか…云々」――。奥様の介護が必要になり、目下、家事にも携わるようになられた経験からのお言葉ですが、毎日毎日365日、休みもなく、朝昼晩の食事の献立を考え作り、洗濯や掃除をし、ゴミ出しや地域貢献をすることの大変さを、今まさに体感されていらっしゃるのだと思います。奥様の介護が、子育てに相当するものと捉えれば、いわゆる主婦のひととおりの日々の仕事について、いろいろ考えさせられていらっしゃるのかも、と拝察しました。個人的には、このように、24時間戦ってきた企業戦士の方が、家事育児介護といった仕事について随筆を書いてくださらないかなぁ…と淡い期待を寄せています。企業戦士がこれらの仕事をどう受けとめるかで、少子高齢化や女性の社会参加・働き方改革の方向性が大きく左右されると思うからです。
最終講義後、なんと先生は、ご著書を大放出してくださり、欲しい本を聴講生が持って帰れるように取り計らってくださいました! 私は欲張りにも数冊頂戴してしまいましたが、まずは『ユニバーサル・サービス』という新書を読ませていただきたいと思っています。EUが昨年12月に「欧州電子通信法典」なる法規を採択したことで、ブロードバンドが明示的にユニバーサルサービスの範囲に含まれるようになったと伝え聴いており、これまでの歴史的経緯を知りたいからです。いずれにせよ、貴重な機会をいただき、ありがとうございました!
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