音楽教室内での「練習」は「演奏」なのか?
2月28日に判決言渡があった「音楽教室における著作権利用にかかわる請求不存在確認事件」の、88頁にわたる判決文を読みました。
本件については、継続的に検討してくださっている先生がいらっしゃるので、事案そのものについては特に以下の(CD音源は使わず楽譜のみの生徒の練習に絞って)争点に注目しつつ、自分自身の問題意識だけ、メモしておこうと思います。私としては、6つの争点以前に、音楽教室内での「練習」と「演奏」の同等性の捉え方を整理したいと思いました(一人カラオケも、練習であっても演奏だ、と言われるかもしれませんが、フル伴奏を消費する娯楽とはかなり違うレッスンにおいて、練習するたびにチャリ~ン、チャリ~ンと、利用料が加算されるイメージは、どうしてもしっくりこない。。。“演奏”できるようになるために“練習”しているのだけれど???)。
【注目争点】
争点3:音楽教室における「演奏」(?)は「聞かせることを目的」とするものであるか
争点4:2小節以内の「演奏」(?)について「演奏権」は及ぶか
争点5:「演奏権」の消尽の成否(複製楽譜の購入時と、発表会での演奏時の著作権料徴収はわかるのだけれど。。)
まず、出版社時代の編集者としての取り組みを思い起こすと、ある1冊の書籍の中に、1フレーズでも著作権のある楽曲の歌詞があった場合、JASRACに使用申請をしてお金を払っていました。営利目的で売り物を作っているのだから、当然のことと考えています。
ただ、文脈上、ある楽曲の1フレーズであることは明らかであっても、台詞の中で1,2単語を口ずさむようなシーンについてまで申請する必要性があるのかは、個人的には悩むところだし(申請していない出版社もあると思う)、そうやって払ったお金が、きちんと権利者本人に支払われているのかは、確かめようのないことではありつつ、何銭というレベルまで管理されているとは到底思えずにいました。これは、物理的な限界として、当時は納得せざるをえない現実として受け入れていたわけです。
また、出版社は従来、著作権者との出版契約の中で印税率を決め、その本が売れようが売れまいが、刷った数に応じて8%なり10%なり12%なりの印税を払っています(楽譜の出版はどういう仕組みなんだろう?)。ただ、その書籍が図書館(民間委託図書館であっても)でいくら繰り返し借りられても権利行使は制限されていますし、有料の読み聞かせや朗読会等があっても、予備校や塾の問題等に一部使用されても、すべてがきちんと報告されているかは甚だ疑問。商業演劇の台本が何度稽古で使われてアドリブを加えられても、それはほぼ作者の埒外。何より、世の中での多くの不法コピーの氾濫を真面目に取り合ったら、ノイローゼになることは確実で、これも技術的に管理可能になるまでは、切り込むのは時期尚早なんだろう、と諦観していました。
文字の口述と、楽譜の演奏を、同列には並べられませんが、無形利用という観点での「著作物を享受(鑑賞等)する」ということのレベル感というのは、難しい問題です。文字を読めない人が、意味もわからず詩を聴く。楽譜を読めない人が、環境音のように音楽を聴く。それらを記憶に留めて(何処かで)口ずさんだり変更を加えたりする。これは果たして複製なのか、口述なのか、演奏なのか、翻案なのか、、。。ゼロから楽譜の読み方や音楽を学ぶ子どもは、いつから音楽を観賞するようになるのか。
そういう問題意識をずっと持ち続ける中、本件は、公に、“フェアユース”や“著作権管理”の程度問題、そして現状の著作権法について、たくさんの人が考えるキッカケになることは確か。今をときめくサブスクリプション方式も、権利者からしたら内心複雑でしょうし、ブロックチェーンによる著作権管理も模索される中、中抜き的業務自体が見直される時代も来るかもしれず、、、。本来は、各著作権者が、個々にその著作物利用をコントロールできるのが理想ですが、今はまだ、管理者が管理しやすい方式にならざるをえない過渡期、ということでしょうか。
私がとても気になるのは、著作権法遵守要請の厳密さが、所によって濃かったり薄かったり、非常に斑である点です。全体を厳格にするには技術が追い付いておらず、かと言って同等に緩めるにはそれを許す規定がない。。。
カラオケと音楽教室、中古ゲームソフトと楽譜、これらは感覚的にはまったく別物に思えますが、この先どう反駁していくか。著作権法の大きな枠組み自体の検討のためには、もっと粘って欲しいと思いつつ、事業の円滑運営を優先するなら、サクッと妥当な料率で包括契約してしまうのが得策なんでしょうか。。。権利者の方々はどう考えるのかも気になります。あ~、一度でいいから、著作権管理業務のインターンを経験してみたい(どのくらい自動化され、どのくらい厳密に処理されているんだろう?)!
〔切り込み遍歴:S46~社交ダンス教授所、S60~ヤマハ発表会、H23~フィットネスクラブ、H24~カルチャーセンター、H27~ダンス教授所、H28~カラオケ教室等歌謡教室・・・そしてR2~音楽演奏教授所?〕
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コメント
いやぁ、実は私にも合わない世界だと、最近つくづく思うようになってます^^;;;。法律に頼らなくても平和を維持できる暮らしがいいですよね!
投稿: Taraco | 2020年3月 5日 (木) 20時31分
ご説明ありがとうございました!法律って本当に難しいですね。自分には合わない世界だというのがよく分かりました(笑) でも、こうやってTaracoさんを通じて知らない世界を少しずつ垣間見ていくのはとても面白いです。また、時々こうやってアクセスしますね〜♪
投稿: AntonMama | 2020年3月 5日 (木) 08時41分
今日、最高学府の法学部を出た人に感想を訊いてみたんですが、その人もやはり、ちょっと納得いかない、と言っていましたので、あながち突拍子もない受け止め方ではないのだと思います~。
AntonManaさんがおっしゃる通り、私もちょっと、音楽教室側の弁護人さんの本気度に、やや疑問を持ちました^^;;。
ケーキの写真集の喩え、おもしろいですね! こういうのもケースバイケースで、どのくらい独特のケーキ・デザインかによっても判断は変わってしまいますし、“デザイン”の“複製”と、“メロディ”の“演奏”というのがまた、著作権のうちの異なる支分権の話なので、なかなか比較は難しいんですよね。
私も、「習字教室で、相田みつをの“にんげんだもの”ハガキをお手本に買って模写したら、そのたびに著作権料払うんかいっ?」なんて思ったりしましたが、これも支分権違いで、“演奏”を考える上では、ちょっと無理筋かもしれず、自分がもし弁護人だったら、どう主張するかなぁ??と考えていて一日終わっちゃいます(苦笑)!
投稿: Taraco | 2020年3月 4日 (水) 20時38分
判決文をざっと読みましたが、音楽教室側の主張のしかたがあまり上手じゃない気がするのですが、気のせいかしら???
JASRACの言い分は相変わらず言いがかりにすぎないし(苦笑)
この件は音楽に限ったことですが、もし有名なケーキを載せた写真集がよく売れた場合、ケーキ職人が「俺のケーキを使って金儲けしたな。だから分け前を寄こせ」と訴えてきた場合、写真家は払わなければならないということですよね?ケーキの代金(=楽譜購入費)を支払っていてもダメなわけでしょう?
・・・と素人の私は考えてしまいます(^^;)
投稿: AntonMama | 2020年3月 4日 (水) 11時00分