「発信者情報開示制度改革の課題」セミナー
過日、表題のオンライン・セミナーを聴講。JILISという、とても開けた印象の学会による主催。直接的には何ら関与のない非会員にも、気前よく勉強の機会を与えてくださるので、いつも感謝しています。
今回のテーマは、近年問題が深刻化している、SNS上の誹謗中傷等への対策のひとつである“発信者情報開示制度”の改革について。
そもそもは、このような誹謗中傷や名誉棄損の問題解決は、発信者と被害者の2者対立構造であるべきところだと思うのですが、情報化時代にあって、ネットワークを管理するアクセス・プロバイダ(AP,ISP)や、コンテンツ流通を管理するコンテンツ・プロバイダ(CP)からの情報提供が、発信者の特定には不可欠であることから、解決がややこしいことになっています。
また、その陰には、「通信の秘密」や「表現の自由」とは何か、どの程度守られるべきものか、というコンセンサスがないことや、裁判所のデジタル化の遅れ(送達等の基本的なやりとりから、発信者特定のフォローまで)、SNS等を運営する外国事業者がきちんと日本で登記されていないこと(法務省管轄…“縦割り100番”か?!)、などの問題があるようで、解決を尚更難しくしています。
近年、SNS上の誹謗中傷があまりに過激化している上、ネット上での著作権侵害の横行も今後ますます深刻化することが予想されます。そんな中、9月1日に、総務省がこれらの問題解決のための「政策パッケージ」を発表したとのこと。
今回のセミナーは、これを受けて、弁護士さんや民間相談機関(cf. SIA)の方、APやCPの方、学者の方等が一堂に会し、発信者情報開示制度の改革について議論をしていました。解決策のひとつとして、非訟手続きを充実させる、というものが検討されており、(既判力の問題はあるにせよ)被害者が自殺に追い込まれるような事態を避けるためには、スピーディーな対応が重要だろう…と、共感しました。SIAには、ここ2か月ほどで約500件の相談が寄せられ、そのうちの5分の1ほどを、深刻な誹謗中傷として認定し対応したとのこと。裁判を通していると、どうしても対応が遅れがちになるため、任意開示促進の検討会も設置されている模様。
一方、プロバイダー協会(JAIPA)の方が繰り返しおっしゃっていた、「発信行為を萎縮させずに改善していきたい」という点も大事だろうなぁ…と思いました。「土管の中を通る中身についてISPは判断できない」というのもおっしゃる通りだと思い、それなのに裁判当事者にされたり、予期せぬ裁判費用がかかったり、余計なログ保存を求められて手間もお金もかかったり、、、私がISPの立場だったらきっと、「もっと生産的な仕事をさせてくれぇー!」と思うに違いありません(泣)。酷い書き込みをする人がいることで、このような時間的・金銭的負担がISPにのしかかり、結果としてそれが広く浅く利用者全員に巡ってくると考えると、やりきれない気持ちです。
とにかく、本来の問題解決のための裁判に辿り着く前に、発信者を特定するために途方もない手間がかかっていること(資格証明の取得に、海外現地に赴く必要がある場合もあるとか?!)は、どう見ても制度改善が必要な状況だと思えます。また、巧妙悪質で、捨てアカウント等を駆使して行われる意図的な誹謗中傷に対しては、ISPやCPでも、正確な情報を持ち合わせていないのではないか?という疑問も、根深さを感じさせます。
某国では、大統領の発信すらCPの判断で削除されたりするようですが、CPやAPにも経営ビジョンがあるわけで、もう少し、「こういう発信はうちでは許さない!」という意思表示が許されてもいいような気がしてしまいます。権力からの圧力で、全CP/APが同調してしまうのは問題でしょうが、、、。
本件については、自分ごととして、引き続きウォッチしていきたいと思います。
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