先日、表題のシンポジウムをリモート聴講。Twitter社が、大統領選の期間中はリツイート機能の仕様変更をすることにしたさなかのこと。また、最高裁判決という意味では、その前日に、非正規雇用と同一労働同一賃金についての2つの判断が示された中…。
「人の口に戸は立てられぬ」「噂に踊らされる」「人の噂も75日」など、噂に関する諺は数多くありますが、Twitterは21世紀の噂拡声器。いい情報も拡散される一方、興味本位や無責任な噂も一気に拡散し、社会問題化している様相もあり。。。
リツイート事件というのは、某者AがTwitter上で、無断で他者の著作物(画像)を利用して行った「つぶやき」を、別の某ユーザーBらがリツイートした際、Twitterの設定でその画像がトリミングされて、元画像にあった(c)表示が切り取られて表示・配信されたことに対して、元画像の著作権者が、某者Aや別の某ユーザーBらを特定するために、Twitter社に発信者情報開示請求を行なったという事案。関係者として、著作権者・A・Bら・Twitter社と大きく4者が挙げられ、複製権・公衆送信権・同一性保持権・氏名表示権などの各種支分権の検討が混在しているため、論点や関心も散在しているように見受けます。科研費基盤Aの「著作権侵害対策におけるインターネット上の媒介者の役割」という研究に絡んだシンポという意味で、近年のGAFAの位置づけに鑑みても、独禁法事件の傾向にも見られる媒介者に絡む、興味深いテーマだと思われます。
今回のシンポジウムには、私が敬愛する先生方が多数登壇された上、質問をされた方々のコメントも様々な問題提起を含み、とても勉強になりました。著作権関連の最高裁判決は、2011年のまねきTV・ロクラクII事件以来ということで、著作権法界隈には貴重なメルクマールとなるべきものだったのでしょうが、プロ責法の発信者情報開示請求を争ったケースという点で、今回の判断の射程には慎重な留保が必要だろう…との師匠のコメントもありました。以下、自分用メモ。
・判決には、補足意見(戸倉裁判官)と反対意見(林裁判官)があった(Twitter社の一定責任、権利確認のユーザ負担)
・Twitter社は、本判決への対応はしていないようだが、トリミング仕様にAIを導入し、画像中の文字は切り取らない設定も実施
・気になる論点〔インラインリンクも“公衆への提示”か/CSS・HTMLを規定したTwitter社の責任/19①の侵害は支分権の範囲にとどまらない/ 19②の表示の一覧性の必要性/ 19①と19③の利益衡量の優先順位/ 氏名表示権のプライオリティ/匿名表現に対する温度差(総務省と裁判所)/ 20①の改変該当性と、20②IVでの免責該当性/ 表現の自由との衡量〕
・裁判所にとっては予選的位置づけの侵害判断でも、リツイート者にとっては個人情報開示や侵害是非をめぐる本選であるのに、当事者不在…
・氏名表示権や同一性保持権の保護要請の程度は、著作者の意向で広狭が変動するか?(著作者の意向はバラエティに富む)
・仔細に過ぎる法構成と、民事刑事の連関が及ぼす、イノベーションへの萎縮効果
今回、憲法の先生もお話しをされたのですが、外在的批判と称して、利益衡量の検討の欠如(cf. 名誉の保護と表現の自由、プライバシー保護と公表する利益等)や、侵害の程度の検討の欠如、著作者利益への適合性の検討の欠如を指摘されていました。あくまで当事者の申立てに基づく係争とはいえ、まがりなりにも最高裁まで持ち上がり、耳目を集めて周知されるなら、国民の血税を使っているという意味でも、もっともっと現代的な論点をきちんと取り上げて、綿密な議論を繰り広げてくれたら…、と感じずにはおれませんでした。当たり障りなく絶妙のバランスで、というのも日本式のいい所なのかもしれませんが、、、。
今回のシンポジウムは濃密な2時間半で、集中して聴いても付いていくのが大変でしたが、頭が整理されました。この日の先生方が、ギャラリーなしで議論を繰り広げたら、さぞや面白く白熱するのだろうなぁ…と想像しつつ…(笑)。
IT技術の恩恵に与る1ユーザーとしては、リツイートにおけるトリミングはあくまでTwitter社の設定だし、元ツイートの著作権侵害にまでいちいち気を配ってはいられない…(もちろん児童ポルノのようなものは別)とは思います。ただ、氾濫する根も葉もない噂レベルの話や、科学的根拠に乏しい論説等から、何をリツイートするかの決断がもたらす、世論構成への影響を考えると、ユーザーも媒介者も、一定の責任を負う時代なのかもしれないなぁ…と感じました。貴重な機会をいただき、ありがとうございました。
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