音楽教室にまつわる著作権問題を考えるシンポジウム
過日、表題のOnlineシンポジウムを聴講。経済学と法学の研究者、実務家、弁護士と、バラエティに富んだ講演者によって、多方向からの著作権管理問題の整理がなされ、デジタル時代の著作権・ネット時代のコンテンツの利活用、という視点で、ひとつの事件にとどまらない問題提起が非常に勉強になりました。
今回の事件を契機に、“独占の是非の分析”“文化の揺籃の視点”“法とソフトローとスキームによる問題解決”という3点が、デジタル・ネット時代には重要な要素になることを痛感しました。
仲介業務法が廃法となり、2001年10月に施行された著作権管理事業法があってもなお、演奏権に関してはJASRACの独占が続く音楽業界。しかもクリエイターは、“信託契約”によって演奏権をまるまる譲渡するしか選択肢のない状態。これが果たして健全なのか否か…。
私がこれまで見てきた信託契約は、①個人が契約能力を失った場面での家族や管財人への信託、②経営戦略として自社の無体財産を関連会社に委ねる信託、③専門性や煩雑を他者に委ねる信託の3パターン。②③は当然、誰にどのように委ねるかの裁量は、元々の権利者にある。けれど今、音楽業界で生きて行くには、①の状態を甘受するしかないのが現実(自分自身で演奏権管理するのは非現実的)。
本シンポの締めで、「JASRACは真面目に頑張りすぎたのではないか」というご発言があり、確かに、信託という強力な権利譲渡を受けたからには、そこからの利益を最大化するのが使命であり、その意味ではまだまだ世の中は著作権料徴収のブルーオーシャンにも見えます。
ただ、著作権法の制定目的は、文化の発展。そのためには公正な利用と権利の保護のバランスに留意する必要がある。このバランスが、独占状態によって崩れそうな兆候を感じた人たちが、恋愛写真事件や音楽教室事件にビビッドに反応しているのかもしれません。昨今の巨大プラットフォーマーによる寡占への懸念も、似たような構図。個人的には、巨大PFにせよ電気事業者や電気通信事業者にせよ、別に独占/寡占状態だとしても、独占/寡占する団体が公益に十分配慮しなければならない体制が整っているなら、 ユーザーにはメリットも大きいのではないかと思っています。
その点、本シンポで触れられた“著作権監視機構”のようなものが権利全般のポータルを監理するというアイディアや、ワンストップ構想など、不透明なガバナンスに手を入れる行政的取り組みが求められるのかもしれない。法による解決・スキームによる解決・ソフトローによる解決にしても、法改正には時間がかかり、スキームには高度なDXが欠かせず、ソフトローの醸成にはステイクホルダーが広く円卓に集う必要がある。いずれも一朝一夕には実現しそうもありませんが、今回のシンポのように、あらゆる側面から落としどころを模索し続けるしかないんでしょうねぇ。
以下、自分用にその他のポイントをメモ。
・権利制限規定の追加導入の検討と、差止請求の余地の検討
・クリエイターへの分配、報酬・補償金請求の検討
・著作権管理事業法制定時、主に利用者側から二十数社が挙手の現実
・演奏権に関しては、依然JASRACの独占状態
・現状シェアは、JASRACが95.3%(信託契約)、NexToneが4.7%(委託契約)
・ロイヤリティ収入の20%を占める演奏権はいまだJASRAC独占
・カラオケ店は個別徴収、パチンコは事前に80円徴収の元栓処理
・カラオケは第一興商とエクシングの二社が透明性の高い詳細利用情報提供可能にもかかわら個別包括徴収の慣習
・立法上の改善までに、行政上、文化庁長官による業務改善命令や演奏権区分の細分化要請も模索されるべき
・恋愛写真事件当時の坂本龍一氏の提言(アラカルテのない信託契約)と、映画音楽に対する徴収
・みんなの言い分が正しいから解決が難しいが、皆が円卓についてソフトローで解決を図るべき
・25%のピン○○や、どんぶり勘定の受講料年額2.5%の適正性(月額受講料の場合5%は懲罰的含意?)
・飾りじゃないのよ“楽譜”は…ハッハ^0^♪(不合理に高額なロイヤリティの検討)
・利用者の公益が考慮されない独占は、音楽シーンを痩せさせる
・音楽教室における生徒の演奏まで、事業者の管理下とすることとロイヤリティ2.5% とのバランス(cf.ひとりカラオケ)
・社会通念や妥当性の観点からの再考と、著作権法の不断の検証の要請(附帯決議五・六)
…ただ、21世紀初頭にはすでに独禁法的観点からの附帯決議もされているのに、未だ独占状態が変わらない分野があるのは、やはり利用者側も、アドオンの手続きへの手間暇や費用を惜しんでいるんだろうと思われます。“包括契約”や“サブスクリプション”というビジネスモデルのありようが、文化のロングテールを守るのか/切り落とすのか…、アーキテクチャで解決できる日は来るのか…、単なる傍観者ではありますが、とてもとても気になります。
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