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2021年1月15日 (金)

『雪の階』

20210109_2

(若干のネタバレがあるかもしれませんので要注意)

 TwitterやSNS時代の近年の現代用語を“やまとことば”に喩えるなら、まるで本書に登場する“神代文字”のような趣の、漢字が多い耽美な文章で綴られた、ミステリアス&官能的な印象だった…というのが第一印象。最近、抒情的な日本語や物語に触れていなかったもので、美しい文章に慣れるのに、かなり時間がかかりました…^^;;;;;。
 貴族主義的な兄と蠱惑的な妹たちの奔放な交歓に、周囲が翻弄された形に見えた結末には、驚きを隠せませんでしたが、体制批判や思想相異の陰には、人間同士の愛憎や神秘主義のようなものも、往々にして潜んでいるのかもしれない。そしてまた、謎解きは、解いている時間こそが昂奮を呼ぶのだなぁ…と、当たり前のことを感じました。
 先週末にほぼ一気読みした本書。この作家さんの作品は初めて読みました。古代イスラエルの都市形成や旧約聖書を研究なさっていたらしく、「フィクションとして書かれたものが実体となって人間を動かしていく、そのメカニズム」に関心を寄せたまま、研究者から小説家になられたのだとか。。。そう聞かされれば確かに、本書のオカルティックな妄信も、歴史にみる数々の暴挙も、頭でっかちになりすぎた人間の、現実把握の不確かさに起因しているのかもしれないな、と思わされたのでした。歴史も多くはフィクションと紙一重でしょうが、ツイートに容易に扇動される昨今の人心動向なども、そのメカニズムの危うさを見せつけられるようで、そら恐ろしくなりました。
 愉しかったのは、新聞記者の蔵原と、カメラマンの千代子の、探偵顔負けの大健闘。主人公の惟佐子の周囲に、この二人と、おつきの菊枝、そして一度は結納を交わした伊地知春彦のような人たちがいて、本当によかった! 二・二六事件の数日前の、帝国ホテルのスイートルームで繰り広げられたドタバタ喜劇がなかったら、惟佐子は矮小な現実世界に戻って来られなかったかもしれない…と思うと、人と人との交わりや作用反作用が、とても愛おしく感じられるのでした。
 唯一今も気になるのは、惟佐子の異母弟の惟浩のこと。教育効果の恐ろしさをまざまざと見せられて、戦前戦中は、彼のように豹変してしまった若者も多かったのだろうと想像すると、誰を心の師とするかで、運命の歯車が大きく揺れ、これも「人間を動かすメカニズム」の一端であるなぁ…と思いました。(歴史の授業はやはり、詳細な近代日本から遡る形に変更すべきでは…?!…12日、半藤一利さんご逝去…)
 世界や民族の分断は、今でさえ深刻な問題だけれど、数学を好む惟佐子なら、“純粋日本人”なんて中途遡上は軽々と飛び越えて、瞬時に“人類皆兄弟”の原始まで到達するんじゃなかろうか…と思ったのは、私だけかなぁ~^^;。
 数日間の読書でしたが、美しく表現力豊かな日本語に触れ、臨場感たっぷりに謎解き気分を味わい、柄にもなく耽美な気分に浸りました。本書を紹介してくれた友人に感謝!

【共通テスト】 二転三転と改革案が見直された共通テスト。明日明後日、初めての実施になりますが、監督業務はこれまでのセンター試験と大きく変わることはないようです。夫の大学は今年は、社会科一科目のみ受験の私立文系志望の学生さん担当となったようで、例年よりやや負担軽減されているようです。受験生の皆さん、寒さに負けずどうぞがんばってください!

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