『犯罪者』
ドラマ「相棒」を長期にわたって楽しんでいます。シーズンによって結構雰囲気が変わりますが、いつも現実社会と並走して、その時代その時代の旬の犯罪を取り上げたり、預言的であったり、問題提起だったり、時にはあまりに警察や政府の上層部を揶揄するような描写にハラハラさせられたり、考えさせられる内容やテーマが多いです。そして、「今日のストーリー、なんか良かったな…」と思ってエンドロールで脚本家を確認すると、結構な確率で“太田 愛”と表示されます。
こうした経緯で私の胸に刻まれたお名前を、書店の平積みの中に見つけて、なんの気なしに読み始めた本書。本書をキッカケに観た「12モンキーズ」と併せ、とても濃密な映画&読書体験となりました。キーワードは、“誰が犯罪者か?”―――(以下、ネタバレ注意)
相馬、鑓水、繁藤修司のトリオと、世の中のどこかに必ずいる「佐々木邦夫」が、第二の真崎省吾を出さないような“フロリダキーズ”的世界を夢見て生きて行く…そんな余韻が心地良い物語でした。読んでいる最中は、ハラハラドキドキ、手に汗握る展開で先が気になって仕方ない、ノンストップ・エンタテインメント! たくさんの登場人物で頭がゴチャゴチャになるかと思いきや、自然と一人ひとりの個性が立ち上って、混乱することはありませんでした。一般人に拾得されたはずの5億円を、どうやって取り戻したのか?という点と、ビデオ撮影が上手だったエミリオには、カメラマンの鳥山が制作したドキュメンタリー「新盆」をネットで発見して、日本での事件を知り、貴重な元映像データを証拠として提出して欲しかった…という2点が、個人的な心残り(笑)。
上巻と下巻からそれぞれ、印象的だったフレーズをいくつか引用。
「こういう仕組みだと、一番下にいる俺みたいなのが仕事を投げ出すと、まったく関係ないおまえらみたいなのが、変な水飲んだり、大変なもん吸ったりして、ひどい目に遭う滅茶苦茶な仕組みだ」(文庫上巻P.431)
「いいかい、年間四億トンって言われる産廃のうち、どれくらいが不法投棄されてると思う? お役所の発表じゃ数十万トンってことになるが、実のところ数百万とも数千万トンとも言われてるんだ。つまるところ、圧倒的に足りないんだよ、最終処分場が。」(文庫上巻P.477)
「『欧米では、訴訟費用を負担できない人々のために、国庫から裁判費用を給付する「法律扶助制度」があり、財力にかかわらず裁判を受ける権利が保障されてきた。一方、日本ではようやく2000年に「民事法律扶助法」が成立したが、これは給付制ではなく立て替え制であり、勝訴、敗訴にかかわらず全額返還しなければならない…』(文庫下巻P.119:現在は生活保護を受けている人の返還は不要に)
「企業の経営陣はいまや市場経済という世界の中の、一企業という国に住んている。彼らにとっては自分達の属する企業グループが国なのだ。そこにはすでに国境もなく、本来の意味での国家もない。彼らは、国家を、企業が潤い成長していくためのシステムだと考えている。」(文庫下巻P.217)
小説の中には、真崎という産廃業者が作成したスクラップブックが登場するのですが、本書執筆に当たり、きっとたくさんのスクラップブックが作られたのだろうな…と想像しています。これだけ緻密な設定と、映像のような描写に触れると、当然、ドラマ化も期待してしまうわけですが、私の中ではすでに、長いドラマを見終えた後のような脱力感もあります。この先には、主役の3人が登場する『幻夏』『天上の葦』という物語が続くようですが、もう放っておいても勝手に動き出してしまうほど、相馬・鑓水・修司の3人のイメージがドラマティックに躍動しています。
長いものに巻かれるより、フロリダキーズを目指したくなってしまう『人でなし』に魅惑されつつ、たいていの人の心の中には、多かれ少なかれ『人でなし』もいれば「事なかれ主義者」もいて、だから悩むんだろうな~と思いました。
空想のジェットコースターに乗せていただき、ありがとうございましたー!
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