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2021年1月 9日 (土)

『年報 知的財産法2020-2021』

20210103_1  日本評論社の恒例年報が出ていたので、年明け最初の読書。特許の損害賠償額算定を巡る法解釈や、著作物の海賊版対策、そしてここ10年の知財業界を反芻…と盛りだくさん。判例の動向、学説の動向、政策・産業界の動向、諸外国の動向と整理されていて、勉強不足でもとりあえずこの一冊を押さえておけば、だいぶ心強い印象です。
 ここ10年といえばまさに、私にとっての知財業界体験ディケード。ネット興隆による出版不況→弁理士試験勉強→特許事務所勤務→付記と知財教育(と介護)→大学院でリカレント学習→私企業での法制度研究。形は違えど、知財業界を遠巻きに渡り歩いてきたこの10年。。。科学技術の進展が否応なく法の形や法解釈を変えさせるのを目の当たりにしてきた感じがします。
 はじめに拝読したのは、弁護士さんを司会とした編者の先生方の鼎談。本書の過去10年のカバーデザインが掲載されていましたが、表紙で目立ったトピックは以下のような感じ。
2011年:電子出版をめぐる課題
2012年:クラウド・コンピューティング
2013年:公衆送信権の国際的検討
2014年:音楽配信と実演家の権利
2015年:不競法・営業秘密
2016年:AI ネットワーク
2017年:地理的表示
2018年:限定提供データ
2019年:画面・空間デザイン、査証制度
2020年:損害賠償額
 多くが、ネットやIT の進展に伴うものであるのが観て取れます。鼎談では、特許についてはプラバスタチンナトリウム事件(出願人に厳格)からマキサカルシトール事件(出願人に軟化)への変容、著作権についてはまねきTV事件とロクラクII事件の線引きの重要性と、音楽教室事件の生徒の演奏についての考え方、法改正では提訴前の証拠収集処分(民訴132条の4)に加えた提訴後の査証制度、損害賠償額に関する1項と3項の併用の是非、著作権の柔軟な制限規定の拡充等について、詳細に語っていただいていました。内閣法制局の所掌事務につき、「法改正というものがどのような力学で動いているのかということは、とても興味深い」とのコメントに、大きく頷きました。
 個人的に触発されたのは、著作権の権利制限規定と補償金請求権の両輪の話。本来は、私的利用による複製や図書館利用であっても、数銭レベルで簡易に徴収するすべがあるなら、使用料は支払われるべきものだと思っているので、遠い将来、それが実現する日も来るかもしれない…と思ったのでした。まぁ、SF的なイメージであって、利用者視点では今のままの方がいいのでしょうが…^^;;;;。
 諸外国の動向もしっかり読みたいところですが、未読。ただ、本年度はコロナ禍で否応なくデジタル化が進むなど、社会状況が司法手続の仕組みを変えているのは世界共通かもしれません。追々ゆっくり拝読したいと思います。

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【雪の階】 次は、高橋是清翁が倒れたニ・二六事件前夜を舞台にしたミステリーを読もうと思っています^^(友人オススメ)♪ 弁理士同期の友人も読んでいるようなので、いろんな人の感想が聴けそう! 奇しくも、直近のETV「100分で名著」はマルクスの『資本論』。“富”を共有できるのが知財の素晴らしいところですが、資本論では知財をどんな風に評価しているんだろう。年のはじめに、社会システムについて考えるのもいいかもしれません。

 

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