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2021年2月 2日 (火)

二次創作と著作権

 劇場版シン・エヴァ、先々週公開予定だったものが延期になっていますが、事前に二次創作に関するガイドラインなどを公表している株式会社カラー。権利者がファンの二次創作活動にまで配慮する時代になったんだなぁ…と感慨深い中、先日、山口大主催の判例セミナーをWeb聴講。タイトルは、「二次創作(もしくは同人誌)と二次的著作物・翻案権」。知財高裁で結審した同人誌事件の概要やポイントを解説してくださるという内容でした。
 ちょうど、ベートーベンの「悲愴」→ビリー・ジョエルの「This Night」→さだまさしの「ひと粒の麦」という一連の創作物に想いを馳せて、「部分」と「全体」のオリジナリティや、権利の存続期間問題が依然気になっているのもあり、また、キャラクターの容姿や名前、設定やプロット等の著作権法での位置づけも再考したく思っていたので、興味深く拝聴。(同じ頃、「コスプレの著作権侵害に対するフェアユースの抗弁」なんていう論文も話題になっていました)

 今回取り上げられた事案は、大量の同人誌を、同人作家に無断でサイトに掲載/公衆送信した者Yに対し、同人作家Xが損害賠償請求をした、というもの。
 キャラクターの著作物性や、翻案たる二次的著作物の著作権行使に関して、過去の判例から要件整理して解説していただきました。過去に、原作者に無断で作成された二次創作物に基づいて著作権侵害で損害賠償を認めた裁判例は存在しない中、本件では、「原作品の著作権侵害だったとしても(今回は非侵害)、オリジナリティのある部分について損害賠償請求してもよい」という判断で請求認容されたとのこと。
20210130_1  『著作権法入門 第二版』(島並/上野/横山先生)の62頁脚注には、
「二次的著作物の著作権者は、二次的著作物の無断利用者に対し差止請求や損害賠償請求をなすことができる。」
とありますし、
 中山信弘先生の『著作権法 第二版』150頁には、
「二次的著作物の著作者は第三者の無断利用に対してのみ権利行使ができるにすぎない。第三者の侵害を止めることはできるが、損害賠償請求については問題がある。原著作者に無断で二次的著作物を創作した者は、自らもそれを利用できないのであるから、侵害されても損害の発生はないと考えることもできるし、原著作者の著作者から、現実に止められるまでは事実上利用することはできたのであり、現に利益を得ている場合もありうるため、損害賠償請求を認め、その後の処理は、原著作物の権利者との間で調整をすればよいと考えることもできる。これと類似の事態は、他の知的財産法の分野でも生じ得ることである(例えば原特許権者と改良発明の特許権者)。」
とあります。
 個人的には、上記記載の最後の一文が気になっています。高林龍先生の『標準 著作権法 第三版』82頁に、二次的著作物と利用発明との対比が書かれていますが、特許はとかく「技術の積み重ね」であるとよく言われる一方、著作物はあまり「創作の積み重ね」とは言われない。けれど、世の中を見渡せば、創作ほど「積み重ね」で出来ているものはないとも思われます。純粋に原作の翻訳や映画化といった二次的著作物ばかりでなく、(何を本質的特徴と捉えるかにもよりますが)「あ、コレはアノ作品に基づいてるな」と思えるものが多々あるということです。ただ、その認定は人によりけりで、まったく予見可能性がないというのが実情ではないでしょうか。
 その意味で、「著作権の保護期間死後70年というのは、あまりに長い!」と思うわけです。

 そしてまた、『著作権法概説 第二版』(田村先生)114頁には、
「著作権侵害の訴訟で、被告侵害者は原告著作権者の著作物が他人の著作権を侵害しているという抗弁を提出することができることになり、裁判所は、その他人の著作物の創作性や類似性の範囲までをも決定しなければ、当該訴訟で著作権侵害との判断を示すことができないことになる。」
との記載があるとおり、同人系の作品の侵害訴訟が、常に訴訟経済に反することになるのもおかしな話。

 今回の講演者の弁護士先生が、自ら「オタクです」とおっしゃっていてシンパシーが湧いてしまいましたが(笑)、同人誌のもとになった原作品リストを見て私も垂涎! ユーリ!on ICE/刀剣乱舞/ダイヤのA/ハイキュー!/Tiger and Bunny/おそ松さん/Free!…。それぞれのキャラクターたちの魅力もさることながら、妄想創作の動機には、声優さんたちの声の色艶も多分に影響していると思われます^^;;。
 もはや、今回事案には何の疑問もなく、原著作者/著作権者の皆様の懐の深さにただただ首を垂れるばかりでした。この先、これらの原著作権者さん達が逆に原告になるようなことがあるのかないのかはわかりませんが、損害額の認定には関心が湧きました。売れる同人誌の中には、正規書籍を軽く上回るものもあるし、プロの作家さんが制限の少ない場で同人誌を売るというのも周知の事実。現在のコミケでの取引量って、どれくらいになっているんでしょう…??
 ともあれ、同人作家さんが、いずれはプロとして世界を席巻するような作品を描いてくれることを願います。
 山口大の知財センターの先生方には、委員会活動でも勉強の機会をいただいたことがあり、『たのしい著作権法』や『これからの知財入門』や『教則 標準化とビジネス』は、いつも机上に置いてあります。今回も貴重な機会をいただき、ありがとうございました!

20210123_5 【福は内】本日節分。コロナは外~!

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