改正種苗法のポイントと対策
先日、「改正種苗法のポイントと対策」というWebinarを視聴。改正の背景も、農業従事者の方々の問題意識もぼんやりと把握しているつもりではありましたが、法改正することで、海外での無許諾栽培をどう制御できるのかがイメージできなかったため、何か具体的なお話が聴けると思い、申し込みました。
3月2日に「特許法等の一部を改正する法律案」が閣議決定され、農業上の新品種がますます知財を構成するようになり、弁理士もその活用の一翼を担えるように制度が整ってくるタイミング。
改正内容は農水省のページにありますが、品種開発には10~30年もの時間がかかるため(シャインマスカットは33年?!)、差別化や取り締まりの必要性がますます高まっているとのこと。ただ、種苗法では正規に販売された種や苗の利用に関する権利消尽が規定されており(21条4項)、一方、自家増殖したものを他者に譲渡することは違法でした(農業者が収穫物の一部を次期作付用の種苗として使用することを自家増殖といい、増殖には他にも様々な方法があることに留意 )。今回の改正で、自家増殖自体にも許諾を要することになるという点が、農業従事者にとっては大きな変更だったのだと思われます。しかし、自家増殖や譲渡の把握は、改正の前も後も難しいことであるのは素人でもわかります。
品種登録に関する国際協定としてUPOV(ユポフ)という条約があり(種苗法はUPOV条約の担保法)、施行後、「指定国なし」として品種登録の届出を行なうと、海外への持ち出しは全て制限されるようになるとのこと。また、消尽の制限が導入されるそうで、指定地域外の栽培を許諾制とし、産地形成を支援するようにもなるのだとか。つまり、たとえ正規に購入した種や苗でも、指定地域外で栽培事業を行なうためには許諾が必要になるとのこと!
このように、種や苗の取扱いがシビアになる中、登録品種の表示(PVP表示)が(従来は55条で努力義務であったものが)義務となるそうで、省令で整備するためのパブコメ募集中の模様。また、出願料や登録料は引き下げられる一方、審査手数料(93000円案)が設定される予定。
さらに、これまでは侵害立証のために、被疑侵害種苗を栽培する必要があり、非常に時間もお金もかかったところ、改正後は「特性表」によって比較検討できるようになり、侵害立証が多少容易になるそうです(農水省から通知される特性表については、出願者に訂正の機会が与えられる)。被疑侵害品種との比較については、特許法と同様の「判定制度」も創設されるとのこと。
興味深かったのは、職務発明ならぬ「職務育成」という規定が8条にあるものも、特許同様、使用者に法定帰属させられるように改正されるということ。発明と育種が似た価値を持ち、発明者と育種者が似たような土俵に立つことの意味を考えさせられました。
事業の安定を守るための知財ミックス戦略のお話で指摘されたように、新品種の開発では公的機関の貢献割合が高い割に、その後の品種開発や収穫物ビジネスといった再生産的なビジネスの方が規模が大きく、種苗の活用過程でのプレイヤーが変わる点が、管理の難しいところだと感じました。また、品種登録と商標登録との追越問題には重々注意という感じです。「市田柿」「るりおとめ」「蛇腹」等の知財ミックス戦略が、効果的な事例として紹介されていました。
海外での無許諾栽培の取り締まりについては、事業を阻害するほどに被害が大きく目立って来ない限りは、なかなか難しいように感じました。海外での悪意の商標登録と併せ、グローバル市場での属地主義の検討が求められると思われます。
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