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2021年3月10日 (水)

『小さいおうち』

20210306_2  『雪の階』『天上の葦』と、満州事変からその後の戦中戦後の、昭和初期を舞台にした小説を続けて読んだ話をしたら、友人から『小さいおうち』という本を勧められました。山田洋次監督が映画化した際、観たいと思った記憶が蘇り、Kindleで一気読み。(以下ネタバレ注意)

 東京山の手の坂の上に建つ、赤い屋根の和洋折衷の可愛い家を舞台に、そこに奉公していた女中タキが、老後になって当時を思い起こしながら日々の暮らしを書いた回想録の体の小説でした。そして、その物語を書き付けた大学ノートを、タキの甥の次男 健史が読んで、当時の人たちの暮らしぶりと、大伯母の秘密を反芻して、心の整理を付けるーーー。
 魅力的な時子奥様をめぐる人間模様は、板倉さんという青年の登場でアンバランスに揺らいで、戸惑うタキの心と同調するかのように戦争の陰が濃くなっていく切なさはありましたが、全体としては明るくハイカラな印象の文体でした。タキの生来の好奇心と、ある種の“頭のよさ”が、創意工夫の積み重ねの前向きさを表していたからでしょう。
 いろいろな恋模様もさることながら、タキが最初に奉公に出た家のご主人が、私にとっては印象的でした。そのご主人とは、小説家の小中先生。先生が繰り返しタキに語って聞かせた、イギリスの“頭のよい女中の話”と、“マドリング・スルー”という言葉。言論の不自由さや、忠誠心からの思いやりの難しさ、不透明な中でも困難を切り抜けて前に進む力…、そんなものを考えさせられたもので。。。
 また、この物語の中ではすっかり脇役にされてしまっている“小さいおうち”の主である平井氏が、気になる存在でもありました。青年 板倉とはまた別のイノセンスを持っていた人なんじゃないかなぁ…と。平井夫妻が最後に、庭の防空壕でふたり一緒に亡くなったことが、この夫婦の最期としてホッとさせられたのは皮肉なことでした。。。
 どんな時代も、時の流れに翻弄されながら、さまざまな人生が交錯したり離反したり、片時も落ち着くことがないのが世の常なのかもしれませんが、戦争という異常事態だけは、あまりに理不尽であるなぁ…と、思わざるを得ません。

 それにしても、「雪の階」では軍人や華族、「天上の葦」では軍の報道官や新聞記者、「小さいおうち」では普通の家族たちが、同じ時代を生きていたわけですが、それぞれの目を通して見た同じ時代が、あまりにも違う様相で驚きました。住む場所や、置かれた立場、社会的役割の違いによって、同じ世界がこんなにも違って見えるなんて、当然ながらも不思議なものだなぁと思います。コロナ禍の今という時代も、人それぞれの実相があって、いろんな物語が繰り広げられていると思うと、人生がなんだか愛おしく感じられるのでした。。。

20210308_2 【国際法】 さて、昭和初期の物語をいくつか読み、グローバル時代の様々な国際問題に直面し、国と国との関係が一般庶民の生活の隅々にまで影響する昨今、そろそろ一度くらい真面目モードで、国際法の本でも読んでみようと思います。国際私法も難しかったけれど、国際(公)法はもっと難解かもしれません。が、これ抜きには、現代の多くの問題をきちんと理解できないような気がするんですよねぇ。。。
(まだ読み始めたばかりですが、序文だけでも、大いに読む価値があると感じます。)

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