『福岡伸一、西田哲学を読む』
表題の復刻新書、息抜きで読むつもりが、結構難儀な読書となりました。
かつて『生物と無生物のあいだ』にとても共感したもので、書店で見掛けてつい衝動買いした本書。哲学者の池田善昭氏と生物学者の福岡伸一氏の対談が大部分を占め、巻頭と巻末に若干の独白文が置かれるという構成でした。
今回の読書の最大の収穫は、西田幾多郎氏と鈴木大拙氏が、石川県の専門学校の同窓で無二の親友だったと知ることができた点かもしれません。私は『東洋の心』という鈴木大拙氏の本にも感銘を受けたことがあって、なんとなく、西田と鈴木という二人の思想を通して、福岡-今西-池田やユクスキュル-ファーブル-グールド-ベルグソン-シュレーディンガーといったありのままのピュシスを見つめる人たちに巡り合えた感触。。。
それにしても、哲学用語の選び方には慎重を期さないと、意思疎通という言葉の役割をまったく果たしてもらえないまま、お蔵入りしてしまう恐れが多分にあるのを感じました。西田幾多郎の言う「逆限定」という言葉の分かりにくさは、大半の紙面を割いて議論しても、未だ消化不良だし、「環境と年輪」の喩えも、ちょっと分かりにくいように思えて仕方ありませんでした。
個人的には、「逆限定」についての「包みつつ包まれる」という喩えについて、「環境は樹を包みつつも、樹がなければ環境たりえない」という感じに、「部分は全体に包まれつつも、部分がなければ全体はない」(包含関係の相互作用/相補性)という風に捉えたのですが、的外れなのか…???
「生命とは何か?」という問いに明確に答えられないのを、「琵琶湖とは何か?」という問いに置き換えて解説くださったくだりは、納得感がありました。流れ込み流れゆく水は常に流動的だけれど、そこに“琵琶湖”というモノを感得するセンスと同様に、人間は“命”というものを見ている。。。
面白かったのは、P.384以降の「生命の動的平衡を分解と合成から考えるーー“先回り”とは何か」とう項。“ベルグソンの弧”(生命の輪)という仮想図を用いて、熱力学第二法則(エントロピー増大則)に抗う生命と、生命の有限性について解説された箇所は、テロメアの逐次短縮という現象をとても分かりやすく説明してもらった気がして、腑に落ちました。
時間と空間を別物と捉えて議論しているところは、なんとなく違和感があったのですが(もし自分が光なら、時間と空間は区別つかない気がする…)、まぁそもそも、人間サイズに閉じ込められた身体で認知できる宇宙なんてたかが知れてる気もするし、対消滅せずに存在している物質世界も不思議だし、光の特性も人間の直観では理解しがたいし、局所的には熱力学第二法則に抗している箇所があるとしても、別のスケールで見たら相変わらずエントロピーは増大してるのかもしれない。。。
…なんてことをツラツラ思う読後感。『宇宙を織りなすもの』という本を猛烈に読みたくなりました。
(先日聴いた「AIに負けない弁理士業務の思考改革」というe-Learningでも、本書と似たような話をしていたなぁ…)
| 固定リンク
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 『野の鳥の四季』(2023.05.30)
- 『いい子症候群の若者たち』(2023.05.08)
- 『ロシア点描』(2023.04.17)
- 『日本アニメの革新』(2023.04.14)
- 『楽園のカンヴァス』(2023.04.02)
コメント