ワクチン特許 一時放棄考
中国やロシアのワクチン外交が盛んですが、まだまだ世界的なワクチン不足が叫ばれ続ける中、先週頭にアメリカが、ワクチンに関する特許の一時放棄を認める意向を示した、と報道されました。マスク不足のときは、あまり深く考えもせずに、そうした特許があるなら開放すべき、と思ったのは事実です。ただ、ワクチンのように時間と開発費のかかる発明に関する特許については、どう考えたものでしょう??(直観的には、製薬会社にとって、特許権の放棄は致命的に思えてしまいます。)
日本の特許法には、93条に(公共の利益のための通常実施権の設定の裁定)という仕組みがあり、「特許発明の実施が公共の利益のため特に必要であるときは、その特許発明の実施をしようとする者は、特許権者又は専用実施権者に対し通常実施権の許諾について協議を求めることができる。」とされています。いわゆる強制実施権で、まさに今回のコロナ禍のような状況では、ワクチンは“公共の利益のために特に必要”であることは間違いありません。けれど、もし協議が成立して通常実施権の許諾を受けても、ロイヤリティの支払いは発生するし、公開情報だけから同様のものを作り出せるかといったら、そう簡単な話ではなく、権利者から手取り足取り教えを乞わなければ、寸分たがわぬ実施はまず不可能だと思われます。そこには、営業秘密的な細やかなテクニックも多数あるでしょうし、何十年もかけて培ったノウハウをライバル企業に提供して、やすやすとアドバンテージを手放すようなことは、緊急事態の一時放棄といえども取り返しはつかず、簡単に決められることではないかもしれません。(日本版バイドール法が使えるような研究も一切なされて来なかったのでしょうか、、、?)
そんなわけで、特許権の一時放棄について、各国各人様々な言い分があるだろうことは当然のこと。ワクチン外交同様、ここでも交渉力がモノを言いますねぇ。。。(cf. こうした政策の、憲法や公衆衛生との兼ね合いを長年検討されている先生方の論文)
一方、秘密特許制度の導入が検討されるなど、今回の話とは逆向きの動きもあり、経済的・国防的な観点で最良の道を探るしかないのでしょうが…、本来は公開することで全体的な技術進歩を促すはずの知的財産権の取り扱いは、近年ますますデリケートになってしまっています。。。
(本日、大規模接種のネット予約開始・・・→予約システムに問題が?!・・・)
【経済安保一括法】2021年7月28日、一括法制定に向けた調整に入ったとの報道。秘密特許制度も盛り込まれる予定とのこと。
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