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2021年5月27日 (木)

『人新世の「資本論」』

20210518_5  先週頭、斎藤幸平氏の『人新世の「資本論」』を読了。“正義”を模索するサンデル教授の『実力も運のうち』に続いて読んだのは、とてもタイムリーだった気がします。なぜなら本書は、“気候正義”(climate justice)を訴える本だったから。。。
 マインドではラブ&ピースを、プロパティではコモン&シェアを、常に意識して生きたい…と思わせてくれる読書体験でした。

 それにつけても、マルクスというのは幸せな人だなぁ…。大著を上梓しただけでなく、生涯を通した思想の変遷が、後世の学者たちによって研究され続け、晩年の書簡にまで手を拡げてもらえるなんて。。。知的財産について関心を持つ身としては、かつてイノベーションを最重要視したマルクスが、どのように“脱(経済)成長”を重視するように変わっていったのかについて、真摯に考える必要があると感じました。
 MBA(Master of Business Administration) ばやりの昨今ですが、本書を読むと、SDGsの時代にはむしろ、MCA(Master of Comune Administration:造語です^^;;)こそを学ぶべきでは…と真面目に思ってしまいます。今のところ、人間が棲むことのできる地球という有限の熱平衡状態の系にあっては、どう考えても資本主義における“持続的成長”なんて、非現実的だと思えるから(cf. この系を、月や火星にまで拡げようとしているのがイーロン・マスク氏やジェフ・ベゾス氏や中国/ロシアなわけですが…)。
 いつだったかNHKで、稀代の読書家で実業家の出口治明氏の「最後の授業」というドキュメンタリーを観ました。その中で、まさに持続的な経済成長を説く出口氏に対し、「成長を、続けなければならないのでしょうか?」と質問した女子学生がいました。この質問に出口氏がどう応えるのか、固唾をのんで見守りましたが、回答は私の期待する方向のものではなかったように記憶しています。この女子学生の質問の意図がどこにあったのかはわかりませんが、本書を読んで私は、“定常型経済”こそ、本来目指すべき状態なんじゃないかと強く思うようになりました(企業決算で年々プラス成長する必要はない、という意味)。しかも、国民の大部分が、外部化された資源によって“帝国的生活様式”を送る日本人は、もっともっと地産地消やマルク協同体について学ぶべきとも思います。そして何より、人間にとって労働とは何か、を考えることの大切さも。。。(分業を徹底して指示されたことだけを淡々とこなす方が性に合っている、という人もいるのが現実ではあるのですが…)。
 著者の現在の立場を端的に著した箇所を、抜粋して記憶に刻みたいと思いました(p.291より)。
ーーーあえて挑発的にいえば、マルクスにとって、分配や消費のあり方を変革したり、政治制度や大衆の価値観を変容させたりすることは、二次的なものでしかない。一般に共産主義といえば、私的所有の廃止と国有化のことだという誤解がはびこっているが、所有のあり方さえも、根本問題ではない。
 肝腎なのは、労働と生産の変革なのだ。ここに、マルクス主義や労働者運動に対する忌避感ゆえに、「労働」という次元に踏み込もうとしない、旧来の脱成長派と本書の立場の決定的な違いがある。ーーー

20210522  個人的にはやはり、気候変動を和らげるためには、先進国に暮らす人たちの生活様式を多少はレトロに引き戻す必要があると感じますし、世の中の会計システムをもっと長いスパンで評価できる仕組みに変える必要もあると思っています。あとはまぁ、兵器だのハコモノだの不必要な既得権益による利益誘導の徹底検証でしょうか…。ただ、じゃぁ自分に何が出来る?と考えると、日常的にエコに暮らすくらいしかすぐには思い浮かばず、有言実行でNPOを立ち上げて活動している友人に頭が上がりません。。。(次の読書は『超訳 ケインズ「一般理論」』か『おだまり、ローズ』か…^^)

【苦言】出版社の販売戦略でしょうが、本書のフルサイズ・フルカラーの腰巻はちょっと紙とインクがもったいない感じです…^^;;;;。きっと斎藤氏は編集者さんに軽く苦言を呈したのではないかしらん。。。

20210526_5 【月食】 昨夜のスーパームーン皆既月食は、都内では見られず(T T)。皆既が終わってから、ぼんやりと朧月が見えました。

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