『父が娘に語る経済の話』
早稲田の政治経済学部が、今春の一般入試から、数学IAを必須科目にしましたが、数年前、そのニュースを聞いた時は、
「え?? 経済って数学を選択してなくても分かるんだ?!」
と驚いた記憶があります。
その後、日々のあれこれの中で、現在の資本主義に色々と疑問が湧き、サンデル教授の本やら、斎藤幸平氏の本やら、ケインズの解説本やらを読んでみたりしていたのですが、いまだに地球の先行きに不安しかない昨今ーーー。
ふと書店で見掛けて手に取った本書は、ギリシャの経済危機のさなかに財務大臣に就任した経済学者、ヤニス・バルファキス氏によって、非常にやさしく書かれた経済の本。帯には、「異様に面白い」と大きく謳われていましたが、読み終えた私としては、「大きな絶望と少しの希望」をもらったような気がしています。すぐに読める本なので、是非たくさんの人に読んでもらい、感想を聴きたいです。
著者は、一般的な経済学者のことを、“科学者のふりをした星占い師みたいだ”と形容しています。本書を読んで、なぜ数学に長けたケインズが、数式を用いた理論化を大してしなかったのかも、少し分かったような気がしました。経済は自然と違って、社会の構成員が将来をどう予感するかに影響され、形作られるものだから。同じ社会を見ても、明日は良くなると思う人もいれば、悪くなると思う人もいて、そんな不確かな未来予測に大きく左右されるのが経済だから。。。だから、本来の経済学者の役割はむしろ、本書のような哲学的な検討を繰り返すことなのかもしれません。それでも、データを正しく読み取って、その検討の材料にするには、やはり数学は必要で、上記の入試科目の変更は英断だと思われます。
大きな絶望を感じたのは、政治と経済は決して切り離せない、政治とカネは固く結びついている、と確信してしまったから(“政治経済学部”という学部名が既に物語っていましたね^^;;)。民主主義においては、一人一票という厳然たる原則があるけれど、資本主義における市場社会においては、富の多寡によって持つ票の数が決まる。お金持ちであればあるほど、その意見が市場で重みを持ち、株の所有率が高ければ高いほど、絶対的な支配権を持って世界の趨勢を決められる。。。中立であるべき中央銀行は、銀行家や資本家と持ちつ持たれつ、政治家と銀行家も相互に依存し合っている。。。そして、大衆から何かを毟り取ろうとする人はいつの時代も絶えない。。。なんて不公平!
結局のところ、為政者や資本家が、地球や市民に配慮できるか否かが運命を決する…という大きな絶望感に苛まれるのが経済の本質のように見えてしまいました。ただ、どんな政治家を選ぶかによっては、(貪欲に余剰を求めて統治対象をすべて商品化しようとする)現在の流れに、ブレーキはかけられるのかもしれない。。。これが小さな希望。
著者は、経済のような大切なことを、経済学者にまかせておいてはいけない、と主張しています。経済についての決定は、世の中の些細なことから重大なことまで、すべてに影響するから、と。(P.235)
どんな人でも、国家や社会をよそ者の目で見ることはできるはず、その方が、世界の本当の姿がよくわかるはずだ、とも。自立した考えを持って「誰が誰に何をしているのか」を問い続けて欲しい…というのが、著者が、父として娘に願う唯一のことのようです。
(昨日、本書から得られる懸念を象徴するかのように、経済再生担当大臣の発言や、新しい内閣官房参与の起用のニュースがありました。。。一方でシュンペーター賞も…)
【原子爆弾】 さてさて、次なる読書は…。6年もツンドクにしてしまった『原子爆弾 1938~1950年』。満を持しての読書です。できれば来月の広島・原爆投下の日までに読みたいところですが、なにせ600頁近い大著。読み切ることができるでしょうか…。
併せて、映画「太陽の子」も是非観に行きたいと思っています!
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