『鷺と雪』
ベッキーさんシリーズ三部作の最終巻、『鷺と雪』を、先々週末に一気読み。「不在の父」「獅子と地下鉄」「鷺と雪」の3作が収められています。
『街の灯』『玻璃の天』に続く本作は、ニ・二六事件(1936年)の朝の一本の間違い電話の奇跡で哀しい幕引きとなりました。
五・一五事件の年(1932年)にベッキーさんと出逢い、数々の出来事に遭遇しながら、少しずつ社会というものに触れて、様々な気づきを得ていく花村英子なる社長令嬢。一つ一つの謎解きエピソードでは、彼女が間違いなく本作の主人公ではあるのですが、全9作を読み終えてみると、その骨格には、ベッキーさんこと別宮みつ子なる才色兼備の知識人と、彼女に密やかな関心を寄せる桐原勝久なる陸軍大尉の、心の交流がありました。あらぬ方向へと進む時代を予期しながらもどうすることも出来ず、無力に随行するもどかしさが、二人の間に連綿と横たわり、双方気になる存在ではありながらも、お互いの運命を甘受せざるをえない時代の悲劇。
二十一世紀の今も、格差の拡がりをどう是正するかは大きな問題になっていますが、当時の、家柄でほぼ固定化された格差社会にも考えさせられました。
私が少し納得いかなかったのは、第2作の“ぎょろり氏”の考える神と対照させたかのような、「不在の父」に出て来た子爵の行動。爵位を与えられたにもかかわらず、社会の最下層に身を置くことを選んで、妻子を置いて家を出てしまった人。そこまでする意思を最初から備えていたのなら、結婚したり子をもうけたりはしなかったんじゃないかなぁ…と。まぁまだ学生の分際で、流されるままにそこまで行ってしまってから、翻意したのかもしれないけれど。。。
主人公の淡い初恋は一体どうなるのか? ここから先の戦争の時代を、彼女はどんな風に生きていったのか…。ベッキーさんから託された未来に、どんな風に関与していったのか…。彼女のことだから、したたかに力強く前に進むのだろうとは思いつつ、長い長い余韻に浸った読書でした。(本シリーズを紹介してくれた友人に、感謝!)
【レ・ザンジュ】 先日、鎌倉にある洋菓子店の「Baked Mont Blanc」をおやつにいただきました。雪のような粉砂糖のほんのりとした甘さが美味でした♪
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